排気量50cc以下の「原動機付自転車(原付)」は、日常の足として役立つ……のですが、日頃のメンテナンスがその寿命を大きく左右します。少しでも長い期間乗り続けたいなら、特にエンジンオイルの交換は定期的にしておきたい所です。
この記事では、「スーパーカブ」(本田技研工業)や「レッツ」(スズキ)を始めとする4ストロークエンジンを搭載する原付全般(スクーターなど)のエンジンオイルの交換方法を簡単に解説しつつ、エンジンオイルの選び方とそれを踏まえたおすすめ商品を紹介します。
そもそも、エンジンオイルはなぜ必要なのでしょうか。大きく分けると以下の役割があります。
エンジンオイルを定期的に点検することは、原付スクーターの故障を防ぐだけではなく、より長く乗る上で非常に重要なことなのです。
エンジンオイルは、原付スクーターの車種によって規定量が定められています。先述の通り、エンジンオイルにはエンジン内部の密閉性を高める役割があります。その観点に立つと、量は基本的に多すぎても少なすぎても良くないということになります。
エンジンオイルの規定量と点検方法は取扱説明書(オーナーズマニュアル)に記載されています。規定量については、車体のステッカーに提示されている場合もあります。
点検方法は車種によって異なる場合もありますが、一般的な原付の場合は以下の通りです。作業の際は軍手、あるいは耐油/耐熱性のある手袋を使うようにしましょう。
(※1)多くのモデルでは、エンジンオイルフィラー(エンジンオイルの給油口)のキャップと兼用しています
点検の結果、エンジンオイルの量がロワーに近い場合は補給が必要です。補給する際は可能な限り、現在入れているエンジンオイルと同じものを補給してください。同じものをどうしても調達できない場合は、同じ規格/分類のエンジンオイルを補給してください。ただし、規格/分類が一致していてもオイルの成分や特性によっては自分のモデルに不向きな場合もあります。
バイクショップなどでエンジンオイルの交換を依頼している場合は「整備記録書」や車体に貼り付けたステッカーにオイルの銘柄や種類が書いてあります。記載(記録)がない場合、あるいはどんなオイルを使っているのか分からない場合は、性能維持の観点からオイルを全量交換してしまった方がベターです(やり方は後述します)。
4サイクルエンジンのバイク(原付を含む)向けのエンジンオイルの多くは、主に米SAE Internationalが定める「SAE J300」、API(米国石油協会)が定めるガソリンエンジン用エンジンオイル規格、JASO(自動車技術会)が定める「JASO T903」という3つの規格に関する表記がなされています。日本で販売されている原付も同様に、推奨するエンジンオイルをこれら3つの規格で指定しています。
先述の通り、エンジンオイルを補給する場合は、できる限り現在入れているオイルと同じものを使ってください。ただし、同じオイルでもモデルチェンジ(製品特性の変更)を行うことがありますので、買う前に必ずチェックするようにしてください。
SAE J300では、2つの数字でオイルの粘度特性を表記します。前方の「W」が付く数値は冬季(寒い時期)における粘度を示し、数値が低いほど寒くても粘度を低く保てる(≒寒さに強い)ことになります。一方、後方の数値は高温(100度)時における粘度を示し、数値が高いほど粘度が高い(≒エンジン保護性能が高い)ことになります。
一般的な原付は「10W-30」または「10W-40」を推奨としていますが、オイルを全量交換する場合は住んでいる地域の気候に合わせて選ぶことをおすすめします。
APIのガソリンエンジン用エンジンオイルの規格は「S」と等級を表すアルファベットの組み合わせで示され、後ろのアルファベットが後方であるほど性能は高くなります。現在は最上位は「SP」等級となっていますが、多くの原付では「SJ」等級と、それに前後する1〜2等級を推奨しているものが多いです。
JASO T903規格は、SAE J300/API規格では考慮されないバイクに求められる性能基準などを盛り込んでいます。大きく分けると、以下の等級に分かれています。
原付のモデルによって、推奨等級は異なります。自分の乗っている原付にピッタリなものを選ぶようにしましょう。
オイル補給の際は、エンジンオイルとオイルジョッキを用意します。原付スクーターの場合、多くのモデルが必要オイル量は700〜800ml程度なので、原付オイル用にオイルジョッキを用意する場合は1L程度の容量で十分です。オイルジョッキの用意が困難な場合は、「じょうご」と「計量カップ」でも代用できますが、オイル専用のものを用意してください。
補給後は、先述の手順に従って再度オイル量を計測してください。構造上、原付では後からオイルを少しだけ抜くことが困難なので、少しずつ補給してください。
エンジンオイルのが少なくなった場合は補給……すればいいのですが、オイルは少しずつ汚れていきます。そのため、エンジンオイルは定期的に交換する必要があります。
取扱説明書を見ると、基本的には「エンジンオイルの交換は販売店にご相談ください」と書かれていることが多いです。手間がかかる上、自治体によっては抜き取ったオイル(廃油)の処分が難しいことがあるからだと思われます。
とはいえ、手順さえ分かれば、交換作業自体は自分で行えます。交換タイミングと必要なエンジンオイルの量は、取扱説明書の「スペック(主要諸元/仕様)」欄または「サービスデータ」欄に書かれています。モデルによっては、車体のステッカーにも同様の記載があります。
オイル交換は、おおむね初回(新車購入後)は走行距離1000kmで、それ以降は走行距離2000〜3000kmごと(または1年ごと)に行うように設定されています。ただ、長距離運転することが多い場合、あるいはエンジンのオン/オフの頻度が多い乗り方をしている場合は早めに交換することをおすすめします。
ただし、オイル交換に必要な工具類や手順は、通常の取扱説明書には記載されていません。「じゃあ何を見ればいいの?」と思うかもしれませんが、整備士向けの「サービスマニュアル」に記載されています。サービスマニュアルが必要な場合は、近くのバイク販売店に相談してみてください。個人が有償で購入することも可能です(※2)。一部のメーカーでは、子会社を通してネット通販もしています。
(※2)購入時に原付の「モデル名」「年式」「型式」「フレーム番号(製造番号)」が必要となる場合があります。古いモデルの場合、コピー品の提供となる場合や、販売を断られる場合もあります
エンジンオイルを交換する場合、新しいエンジンオイル、オイルジョッキ、油類を拭き取る布の他、以下のものが必要です。
加えて、パーツクリーナーがあると、エンジンやドレンボルトに付いた油の拭き取りが楽になります。
原付の構造によっては、用意したレンチやスパナがうまく入らないことがあります。レンチやスパナを新たに購入する際は、必ず目視で現車を確認してから選びましょう。
エンジンオイル交換の具体的手順はモデルによって異なりますが、おおむね以下の通りです。
エンジンオイルは高温であるほど抜き取りやすいのですが、その分やけどもしやすくなります。作業の際は、やけどに気を付けてください。
また、ドレンボルトの取り付け時に力を入れすぎるとエンジンが破損します。トルクレンチ(ねじりの強さを調整できるレンチ)を持っている場合は、サービスマニュアルに記載された通りのトルクで締め込めばOKです。持っていない場合は、オイル漏れが起こらない、ある程度の強さで締め込むようにしてください。
4サイクルエンジンの原付で使えるエンジンオイルはいろいろあります。その中でもおすすめのものを幾つか紹介します。
ホンダ(本田技研工業)の純正エンジンオイルです。一般向けには1L品が販売されています。
ULTRAシリーズはホンダのバイク向け純正エンジンオイルブランドで、G1は同社のスクーターを除く各種バイクにおける基準オイルとなっています。2021年に発売された新パッケージ版はベースオイルの組成に変更があり、寒冷地での利用に強い「部分化学合成油」に切り替わりました(旧パッケージ版は「鉱物油」)。
ヤマハ発動機の純正エンジンオイルです。一般向けには1L品が販売されています。
YAMALUBE(ヤマルーブ)は、ヤマハ発動機の純正オイルブランドです。ホンダにおけるULTRA G1と同様に、このオイルはヤマハ発動機の一部モデルを除くバイクにおける基準オイルとなっています。コストパフォーマンスを重視した鉱物油で、いろいろな「走り方」にピッタリなことが特徴です。
EMGルブリカンツが販売しているMobil(モービル)ブランドのバイク用エンジンオイルです。一般向けには1L品が販売されています。
ベースオイルは鉱物油ですが、高度な添加剤を配合しており、エンジンの清浄や保護に対する性能を高めています。さび/腐食の抑制効果も高めです。
ホンダの原付スクーター(50〜125cc)向け純正エンジンオイルです。一般向けには1L品が販売されています。
ベースオイルは鉱物油で、摩擦低減剤を配合することでスクーターに適した特性に仕上げています。原付スクーターで使う場合は、先述のG1よりも手頃であることも魅力です。
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