ブックレビュー(2000年1月)

XMLアプリケーションズ
基礎の徹底解説からADOやASPとの連携,Webサイトの構築まで

著者:Frank Boumphrey,Olivia Direnzo,Jon Duckett,Joe Graf,Paul Houle,Dave Hollander,Trevor Jenkins,Peter Jones,Adrian Kingsley-Hughes,Kathy Kingsley-Hughes,Craig McQueen,Stephen Mohr
翻訳:トップスタジオ
監修:北澤誠
価格:4800円
体裁:B5変型版 624ページ
付録:なし
ISBN:4-88135-849-9
発行:株式会社翔泳社
発行日:2000年2月20日


 1998年Worox Pressより刊行された書籍『XML APPLICATIONS』の翻訳書。XMLでドキュメントを作成する方法を解説する書籍が多いなか,本書は題名にもあるとおり,XMLを活用したアプリケーションを開発することを目的とした中上級者向けの書籍である。

 本書は全部で13章からなる大規模なものとなっている。内容は大きくXMLの解説とXMLアプリケーションの構築に分けることができる。

 第1章から第5章までは,順に「XMLの基本構成」「ウェルフォームド文章と検証済み文章」「XMLスキーマ」「名前空間(ネームスペース)」「XMLリンクとポインタ」であり,XMLにまつわる基本的な文法や仕様についての解説になっている。ただし,このうちXMLスキーマとXMLリンク(XLink),XMLポインタ(XPointer)の仕様は本書の執筆時点ならびに現在においてもまだ策定されていないので,読むにあたっては最新のW3Cの仕様書と比較する必要があるだろう。原著の執筆時期が約2年まえと古いため,解説中には最新のWorking Draftよりも古いものもあるが,基本的な考え方は同じである。しかも,書籍中には最新情報と照らし合わせた訳注も入っているため,情報の古さはさして気にならない。

 第6章以降は,本書の本題であるXMLアプリケーションの構築技法となっている。第6章の「XMLドキュメントオブジェクトモデル」では,DOM(Document Object Model)の概要を説明したのち,Internet Explorer 5.0においてMicrosoft社のXMLパーサ(MSXML)とJScriptを使ってXMLドキュメントにアクセスするサンプルを示している。第7章の「XMLの表示」ではCSSを使ってXMLドキュメントを整形する方法について,第8章の「XSL」ではXSLを使ってXMLを変換する方法について,それぞれ説明している。ただし,本書で解説されているXSLは,XSLとXSLTが分化するまえのXSL仕様(原著執筆時点の仕様)に基づいているため,現在の状況とはやや異なる。よって,適時W3CのXSLT仕様書XSL仕様書を参照する必要があるだろう。また,残念ながらXSLについては割かれているページが少ないこともあり,概要しかわからないという感は否めない。

 第9章の「XMLとデータ層」はMicrosoft社のSQL Server 6.5を使ってデータベースとXMLとの相互変換をする方法について,第10章の「サーバー側のXML」はASP(Active Server Pages)を使ってXMLを解析しクライアントに解析した文字列を返す方法について,それぞれ説明している。この9章と10章こそが本書のメインともいえる部分であり,約80ページほど割いて,サンプルを示しながら比較的深い部分まで解説されている。

 第11章の「ケーススタディ――Travel Broker」では,XMLで3階層のアプリケーションを構築し,旅行会社のパッケージツアーシステムを構築する事例を紹介している。その内容は実践的なものであり,サーバーサイドでVBScript/ADO/MSXMLを使ってアプリケーションを実装する方法を説明している。実際にXMLアプリケーションを構築するにあたっては,かなり参考になることだろう。第12章「エル=リモンの草」では,Javaを使いXMLファイルと画像を1つのWebページにまとめるアプリケーションを構築している。この処理は,たとえば,「XMLで記述したテキストを整形してHTMLとしてWebで参照させる」「必ず指定した場所に広告バナーを埋め込むようなWebアプリケーションを作る」といった用途に応用できると思われる。全ソースプログラムは著者のホームページからダウンロードできるので,実際に動作させて試してみるとよいだろう。

 第13章は,Microsoft社のActive Chanelで使われるCDFファイルについての解説である。Active Channelは発表当時は流行ったが現在はもはや下火なので,あまり参照することはないだろう。

 なお,本書の最後にXMLの仕様やCSSのプロパティ一覧といったリファレンスが掲載されている点はありがたい。

 本書は,かなり盛りだくさんの内容となっているが,盛り込みすぎたために,逆に個々のトピックがやや薄くなっているという感じが拭えない。そのため本書は,「すでにXMLアプリケーションを開発している開発者がさまざまな技法を学ぶための実践書」というより,むしろ「これからXMLアプリケーションを作ろうと考えている開発者がどの技術をどのように使えばよいのかを理解するための概説書」として位置付けられる。内容的には,技術概要や応用事例などが凝縮されているため,概説書としては得るものも多いだろう。ただし,実際に開発するにあたっては,W3Cの仕様を辿ったり,ASPやJScript,DOMの使い方といった個々のトピックを別途学んだりする必要があると思われる。

 今日XMLが求められていることは多岐にわたる。そのため,XMLを知るには,単にXMLの仕様だけを理解すればよいのではなく,XMLスキーマ,XLink,XPoint,XPathなど,XMLに付随するさまざまな仕様を学ばねばならない。それらの全体像をひとまとまりにしているという点で,本書には大いなる価値があるといえる。

 「これからXMLを利用したアプリケーションを構築したいと思っているのだが,どの技術をどう使えばよいのか,よくわからない」という開発者に,本書をお勧めしたい。

大澤文孝

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