インターネットアプリケーション時代の企業ネットワーク再設計
アプリケーション形態の変革と物理ネットワークの再設計

 アプリケーション形態の変革と
物理ネットワークの再設計

 企業がパーソナルコンピュータ(以下,PC)によるネットワークの利用を本格化してから5年以上の歳月が経過した。いまや企業内に設置されたTCP/IPネットワーク(以下,企業ネットワーク)上には,さまざまな情報が大量に流通している。すでに企業ネットワークは,重要かつ不可欠なインフラとしての地位を確立したといえるだろう。今後,インターネット(グローバルなネットワーク)とXML(グローバルなインターフェイス)が浸透してゆくことで,企業ネットワークはますます重要な位置を占め,拡大および拡張されることになるのは間違いない。

 その一方で,企業ネットワークを取り巻く環境は,Windows 2000のリリースやLinuxの台頭,アプリケーションサービスプロバイダの登場などに伴い,ますます大きな変化を見せている。このような傾向は,おそらく今後も続くだろう。特に,ブロードバンド時代の到来とIPv6への移行は,間近に迫った問題といえる。そうした環境の変化を柔軟に受け止め,企業の生産性の向上へと結び付けてゆくためには,企業内の物理ネットワークを現状に合わせて柔軟に再設計してゆく必要がある。

 本章では,いま企業ネットワークが直面している変化とは何か,なぜ物理ネットワークの再設計が必要となるのかに注目し,そのポイントとガイドラインを示してゆく。

Windows 2000のもたらす影響

 PCネットワークの創生期において,その導入は企業の部門単位で実施されることが多かった。本稿の執筆時点で多くの企業に導入されているWindows NTは,PCネットワークの創生期に登場したものであり,主に「部門向けサーバー」として設計されたものだった。ところが,当初「部門向けサーバー」として登場したWindows NTは,安価な価格と使い勝手のよさといった理由から,次第に全社規模のPCネットワークにも採用されるようになっていった。その結果,Windows NTを使用した企業規模のPCネットワークの構築と運用が一般に普及する一方で,多くのネットワーク設計者の苦悩とTCO(Total Coast of Ownership)の上昇が生み出されたのである。

 ネットワークプロトコルの変遷にも目を向けてみよう。Windows NTがリリースされた当時,企業ネットワークはNovell社のNetWareで構築することが多かった。当時のNetWareは,Novell社の独自ネットワークプロトコルであるIPX/SPXを採用しており,初期のWindows NTも独自ネットワークプロトコルであるNetBEUIを採用していた。つまり,企業ネットワークは,使用するネットワークオペレーティングシステムに依存した各種ネットワークプロトコルを混在させて構築せざるを得なかったのである。その後,TCP/IPを基盤としたインターネットが爆発的に普及する。インターネットに対応するため,NetWareやWindows NTは徐々にTCP/IPをサポートするようになり,企業ネットワークもTCP/IPだけで構築できるようになっていったのである。

 2000年2月にMicrosoft社がリリースしたWindows 2000は,「部門向けサーバー」から「企業向けサーバー」まで,あらゆる規模の企業ネットワークに対応できる柔軟性を備えた野心的な製品となっている。Windows 2000が提供するActive Directoryは,企業ネットワーク全体を念頭において設計されたディレクトリサービスであり,IntelliMirrorに代表されるさまざまな周辺サービスは,Active Directoryを中核として動作する。Windows 2000の提供する各種サービスは,エンドユーザー部門の負担を軽減し,IT(Information Technology)部門によるネットワークの一元管理を可能にするものといえるだろう。企業は,Active Directoryを導入することで,PCの導入に伴ってボトムアップ的に構築されてしまった分散ネットワーク環境を,再びIT部門に再統合し,TCOの最適化を計ることができる。このような背景を考えると,企業ネットワークを構成するネットワークオペレーティングシステムは,Windows NTからWindows 2000へと緩やかに移行してゆくことになると予測される。

 Windows 2000はTCP/IP技術を中核として,企業ネットワーク全体を念頭において設計・開発されている。このため,Windows 2000を支える物理ネットワークも,TCP/IPをベースとし,企業全体を念頭において設計・実装することが望ましい。そのようにすることで,初めて企業ネットワークはインターネット時代に対応したITの中核として生まれ変わり,今後の変化に柔軟に対応してゆくことができるのである。

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