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ビジネスインテリジェンス導入を巡る日本の課題ビジネスインテリジェンス、その効果と威力(2)

Part1「重要性が認知され始めたBIの市場動向」の後半でも触れたが、BI(ビジネスインテリジェンス)の市場は、米国においては、驚くべき勢いで伸張しようとしている。日本ではまだ顕在化していないが、主要なBI関連ベンダの声をまとめると、昨今の経済環境による体質改善が求められていること、市場競争が激化している点、さらに、グローバル化の進展といった企業が置かれた立場が大きく変化していることで、BIに関する関心が高まり始めている様子が分かる。つまり今後は、日本でもBIの成長が見込まれることになりそうだ

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危機感もデータもツールもあるが……


 SPSS ビジネスインテリジェンス事業部担当 村田悦子上級副社長

 SPSS ビジネスインテリジェンス事業部担当 村田悦子上級副社長

 SPSSのビジネスインテリジェンス事業部担当・村田悦子上級副社長は、企業がBIに関心を寄せ始めている理由として、「ユーザー企業自身が、顧客の顔が見えなくなっている、という危機感を持っていることが大きく作用している」と話す。

 「企業は、顧客の動向を把握するために、数々のITを導入し、多くの情報を手に入れることに成功した。だがその結果、企業内には数多くの情報がはんらんすることになり、とても処理ができないほどのデータが蓄積されることになった。顧客を知るために蓄積したはずのデータが処理できずに、結局は顧客の顔が見えないというジレンマに陥っている」というわけだ。

 コグノスのマーケティング本部・山田和昭副本部長も、「販売、仕入れ、マーケティングにかかわるデータだけを見ても莫大なデータ量が企業に蓄積されている。この数字を束ねて、あらゆる角度から検証し、迅速に結果を導き出すことが求められている。顧客起点の経営手法を現実のものにするという意味で、BIの導入を加速させる企業が出てきた」と話す。

 データ量の増大は、直接、顧客動向を把握することにはつながらない。この点ではまさに、BIの導入によって解決する側面が出てくることになりそうだ。

 また、国際会計基準への準拠、四半期ごとの業績評価、国際競争力を高めるという点も、BIの導入が推進される要因の1つとなりそうだ。

 一方、経営者の意識の変化も作用している。

 経営者の元には現場から数々の情報が上がってくるが、それらの情報を見ても、経営判断には生かしにくいという実態がある。部門偏重型のデータであったり、一部には現場意向を尊重した形でバイアスがかかった報告書が出てきたりする可能性もあるからだ。さらに、過去の傾向を分析するだけにとどまっているデータ利用を超えて、今後噴出するであろう課題を事前に予測したり、市場の変化を先読みしたりするといった経営判断支援型の情報を求める声もある。

 つまり、経営判断指標となるような経営者向けの情報が欲しいという要求が出始めているのだ。部門ごとの意思決定では不可能であった、経営全般の視点からの意思決定支援システムを求めており、この点でも、BIの重要性が認識されつつあるといえるだろう。


SASインスティチュート マーケティング本部 安藤秀樹本部長

 だが、SASインスティチュートのマーケティング本部・安藤秀樹本部長は、こんな指摘をする。

 「経営者の間にも、BIに対する認識が高まり、BIによるIT武装をしなくてはならない、という危機感もある。だが、実際に導入を検討する段階になると、自社の場合はどうしたらいいのか、何を導入すればいいのか、という点が分からない例が多い。経営者の経営に対する問題意識はある。そして、優れたBIツールもそろってきた。だが、その間をつなぐことができない経営者があまりにも多い」

 そこで、SASインスティチュートでは、一気に成果を求めるのではなく、まず段階的な取り組みを提案する。

 「社内にBIを活用するノウハウの蓄積がない段階や、情報を扱うための業務設計ができていなければ、BIの効果は十分に発揮できない。データを活用して事業を推進していく考え方やそのための定義、ビジョンなどを策定し、社内に定着させる必要がある」と訴える。段階的に第1フェイズ、第2フェイズというような形で、企業体質を転換していくことがBIの成功につながるという。

 すでに、各社はこの辺りに知恵を絞り始めている。BIの導入に関する事例を積極的に紹介し始めたり、コンサルティングチームの増強などに力を入れ始めたりしているのも、その表れの1つだといえるだろう。

使い勝手がポイント

 「データマイニングが、BIの頭脳部分」と位置付けるSPSSでは、「データウェアハウスの導入が浸透していることで、企業におけるデータがきれいな形で整備されている点がデータマイニングを行いやすい環境につながり、BIの導入を強力に後押しすることになっている」と話す。

 データマイニングやテキストマイニングを行いやすいデータ環境を整えるには多大な時間がかかる。だが、ここ数年のCRMやERP、さらにWebから得られる各種データなどの蓄積された情報がデータウェアハウスとして、分析しやすい状態で保存されていることは、BI導入の障壁を大きく引き下げることにつながっている。

 同時に、データマイニングツール、統計解析ツール、OLAPツールなどの操作性が高まっていることも見逃せない。SPSSでは「Clementine」を提供しているが、「統計解析の専門知識を持たないユーザーでも利用できる操作性の高さを訴えている」という。


SPSS ビジネスインテリジェント事業部営業部 多川真康マネージャ

 「3〜5年前に、データマイニングツールを導入したものの、一部の統計知識を持つ専門家向けのものであったことから、かなり苦労をしたというユーザーの声も聞く。だがClementineでは、専門家以外でも活用でき、それにより経営改革を実現したという事例も出てきている。あまりにも過大に万人向けのツールになっているといういい方をすると誤解が生じるが、統計解析の専門家による運用でなくても導入成果が出ているという実績を積極的にアピールしていく必要があるだろう」とSPSSのビジネスインテリジェント事業部営業部・多川真康マネージャは話す。

 Clementineは、世界的に見ても日本での販売実績が最も大きく、「使いやすいデータマイニングという点にフォーカスした展開が成功の要因」と同社では、自己分析している。

 SASインスティチュートでも、「操作性の高さは重要な視点」(SASマーケティング本部マーケティングコミュニケーション部・平尾正裕マネージャ)と前置きしながらも、「操作性だけでなく、企業内に蓄積されたデータを加工して、企業全体で情報を共有できるところまでをスムーズに行える統合環境の提供も重要だ」と訴える。BIバリューチェーンを標ぼうする同社ならではの視点だといえるだろう。

 同社では、「使いやすさとともに、どれだけ効果があるかを訴えることが早道」ともいう。

 「統計解析は難しいといった意識が根底にあり、これが導入の障壁になっている点も見逃せない。専門知識が必要ではないといった壁がなくなっている点を強調するとともに、実際に効果がこれだけ出たという実績を示した方が理解しやすい」と、異口同音に話す。


コグノス マーケティング本部 山田和昭副本部長

 OLAPツールの使い勝手で高い評価を得ているコグノスでは、今後、OLAPのWeb対応を強化することで、経営トップから現場レベルまで、BIを活用できる環境を提供する考えだ。

 コグノスの山田副本部長は、「BIは一部の人間しか活用できないというのでは意味がない。現場レベルが日々の活動の中で手掛かりをつかむためのツールにならなくてはいけない。ERPやCRMの浸透によって、活用できるデータはそろってきている。さらに、ハードウェアの低価格化によって導入コストも低減してきた。また、Webの普及で、Webに対するリテラシーも上がってきている。こうしたさまざまな環境を考えると、経営者から一般社員までの各層において、BIを積極的に活用できる仕組みが出来上がっている」と話す。

 同社では、Webサービスへの対応なども視野に入れて、展開していく考えだ。

BIの投資対効果には独自の指標を

 では、BIのROI(投資対効果)に対する考え方はどうなのだろうか。

 BIは、人員削減型や期間短縮などを前提とした情報化投資ではないことから、ROIが推し量りにくいというのが実際のところだ。

 そのため、導入に成功したユーザー企業もROIの数値目標を明確に掲げていない場合が多いといえる。

 「だが、BIは使う人によって、ROIが大きく変化することを知るべきだ」とSPSSの村田上級副社長は警告する。

 「分析者のノウハウや知識によって、どんな結果が導き出せるか、あるいはいかに的確な経営判断につなぐことができるかは大きく変化する。それによってROIも、当然変化する」

 SPSSでは、導入を前に実際のデータを活用したプレ分析サービスを用意して、データマイニングの活用による実績を具体的な事例として見せている。

 「導入目的が明確でないといった、漠然とした意識の企業は失敗する公算が強い。自分の会社は、どんなところに問題があると考えているのか、BIによって何をしたいのか。当社では単にBIツールを売りっ放しにするのではなく、その解決に向けて、ユーザー企業、パートナーと一緒になって取り組ませてもらっている」(SPSS・多川マネージャ)と強調する。

 SASインスティチュートでは、ROIを、あえて「リターン・オブ・インテリジェンス」と定義し、インテリジェンスからいかにリターンを得るかというBIの根本的な考え方を訴える。

 「単に、業務効率をお金に換算するという従来型の考え方ではなく、インテリジェンスに投資し、それによって企業の体質を変えたり、強化したりといったことが必要になる。BIのROIは、そうあるべきだ」と話す。

 BIにおいては、従来の基幹系情報システムとは大きく異なったROIの考え方を導入すべきというのが、ベンダ各社に共通した意見といえる。

Profile

大河原克行(おおかわら かつゆき)

1965年東京都出身。IT業界専門紙「BCN(ビジネス・コンピュータ・ニュース)」で編集長を経て、現在フリー。IT業界全般に幅広い取材、執筆活動を展開中。著書に、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社刊)など


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