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街づくりモデルによる「成長する企業システム」“街づくり”で理解するシステム構築入門(3)(3/3 ページ)

今日の企業情報システムは、非常に大規模で複雑なものとなっている。そのことを理解するために、今回は大規模企業システムを“都市”に見立てて説明していこう。

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時代とともに変化するには

 企業システムにおいても、ニーズの経年変化を考慮に入れ、使いながら良いシステムに成長させていくという考え方を取り入れるべきだろう。つまり、初期の開発フェイズからリリース後のメンテナンスに至るまで、作業量の変化はあるものの継続的に「開発」が行われていると見なすわけだ。

 このためには、これまでどおりのシステム開発のやり方では無理だ。これまでのシステム開発は製造業でモノを“生産”するように、リリースすることを強く意識していた。しかし、リリースしてからもなお開発を継続するとなるとアプローチに大きな違いが出てくる。

 この点では、前回紹介したアジャイル開発が解決策となり得る。アジャイル開発は、システムを短い期間で開発された成果の積み上げとして考えている。これによって前回述べたように早いタイミングで実際に動くシステムを作って評価し、即座に修正を行えるというメリットが生まれるのだが、同時にリリース後にも規模を縮小するだけで引き続き同じ体制で開発を続けることができる。これは、短期間で開発の成果物を出すという手法に特化したためだ。

 なお、アジャイル開発は短期間で開発を完了させる──つまり生産性の向上を目指した手法ではない。システムを“生産”するというパラダイムから、持続的に“改善”するというパラダイムへの変換なのだ。

持続的に美しくあるために

 しかし、持続的に成長することが可能だとしても、持続的に魅力ある街であり続けるというのは簡単なことではない。ここでは、2つの例を紹介したい。フランスのパリとハワイのコナだ。

 フランスのパリは数世紀にわたって美しい街であり続けている。実は、パリでは19世紀半ばに制定された建築指針がいまでも守られている。車の発展や戦争などの変化はあったものの、核となる部分ではまったく変化がない。これは、パリ市内の建築物に対する厳しい行政規制が有効に機能しているためだ。高層建築は特定の地域にしか許されず、新築はもとより、既存の建築物の修復であっても周囲の景観に沿うことが求められる。そこまで強い規制を掛けているからこそ、パリの街には統一感があり、歴史を感じることができる。

 一方のコナはハワイ島の西端に位置する美しい町だ。人口は約3万人で、観光で成り立っている。コナの街には自然があふれている。たくさんの街路樹と花、そして青い海。建物は1階ないし2階建ての低層建築になっており、壁面は道に向かって大きく開かれている。素材は岩や木で、白、茶、黒などの自然素材の色をしている。そのため、すべての建物に統一感があり自然との調和が取られている。コナがこの風景を保っていられるのはマスタープランに負うところが大きい。そのマスタープランにはこう書かれている。

「コナ・ウェイ・オブ・ライフ(コナ的な生き方)として認識される特徴を維持し、強める」


 この基本理念から「車両よりも人間優先」「地元の価値観を維持する」といった目的が定義され、屋根の形、壁面の特徴、家の素材・大きさなどが規定されている。実はこのマスタープランは住人主導でまとめられたもので強い法的拘束力を持たない。それでもなおマスタープランが有効に機能しているのは住人たちの思いによるところが大きい。住民で構成されたデザイン委員会が存在し、新しい建築物の審査を行う。まずコナを愛するという気持ちから生まれたのだ。

 このように、パリもコナも長期にわたり美しい町であることは間違いない。しかし、どのような美しさであるか、そしてそれをどう維持しているのかはまったく異なる。

 システムも同じことだ。どのようなシステムが良いのかは企業によって異なり、その維持方法も異なる。情報システム部門が主導的に厳しい規制を課すこともできるし、ユーザー部門が主導的に決めても良い。

 こうした概念はEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)、ITガバナンスと呼ばれるものが該当する。何か特別に難しいもののように思われているが、要するに「らしくあるためにどうするのか」ということにすぎない。そのため、EA自体には共通の解はない。むしろ自らが「どうあるべきか」という姿を決めることができれば、おのずとどうすべきかは見えてくるはずである。

 あなたは自分の街をどうあるべきだと考えていますか?

参考図書▼「美しい都市をつくる権利」(五十嵐敬喜著/学芸出版社)

 

※本連載は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。

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