今日の企業情報システムは、非常に大規模で複雑なものとなっている。そのことを理解するために、今回は大規模企業システムを“都市”に見立てて説明していこう。
前回までは家(個人邸宅)の建築に注目しながら、主にシステム開発の過程について説明してきた。今回は開発するという行為から進んで、アプリケーションを利用する、運用するという部分に注目してみたい。メタファとするのは街づくりだ。
街というのはさまざまな要素によって構成されている。建築物(商業施設、公共施設、個人邸宅)、交通機関(道路、鉄道)、公園・広場、あるいは田んぼや畑も含まれるだろう。しかし、街と呼ぶには、それらの要素が存在するだけでは駄目だ。要素が配置され、互いにつながることで、はじめて1つの街として機能する。はじめは数軒の家から始まったとしても、街はつながりを広げながら大きくなっていく。つながりこそが街の本質であり、暮らしやすさの重要な要因だといってもよいだろう。
企業内システムもまた、複数のシステム(サブシステム)によって構成されている。しかし、その成り立ちは街と違うように感じる。昔はホストという巨大な建物だけが存在しており、その中に経理システム、営業システム、在庫システムなどが同居していた。その時代は、街というよりも1軒家があったと表現するべきだろう。しかし、近年のダウンサイジングとオープン化の波により、さまざまなシステムが乱立するようになってくる。特に、低価格化によって部門予算の範囲でシステムが作成可能になると、増殖の速度は急激に増して行くことになる。結果として、企業内のシステムは、それなりの数のシステムの集合体となった。
しかし、そのシステムの集合は、とても街とは呼べるような状況にない場合が多い。それは、街にとって重要な、要素同士のつながりが無視されているからだ。小さなシステムは、その予算を出すステークホルダー(特定部門)の要望によって作られている。そのステークホルダーは、自分の業務をそのシステムで行うことを目的にしており、周囲とのつながりは考えていないことが多い。いわば、街の状況や環境を一切考慮することなく、家を建ててしまったようなものだ。
ところが、しばらくすると他システムとの接続が求められてくる。システムの便利さに気付くと、これまでは人間がデータをやり取りしていたものを、より直接的にやりとりを行い、省力化を考え始めるのだ。これがEDIやバッチ転送によるデータ連携である。
しかし、そもそも周囲とのつながりを考えずに作られた建物同士をつなげるのは大きな労力が伴う。好き勝手な場所に建ててしまっているので、つなぎたい先の建物ははるか彼方であることが多い。間に川があれば橋を作らなくてはいけないし、山があれば迂回するなり、トンネルを掘らなくてはいけない。システムをつなぐということに大きなコストを支払ったのだ。
こうして、少しずつ建物同士につながりが生まれ、データが流通し出す。しかし、それでも街にたとえることは難しいと感じる。それは、それぞれの建物が目的とするつながりを達成するために独自に道路工事をしているからだ。新たな建物を作るたびに、ほかの建物と結ぶ道路を作るので無駄が多い。使う場合も、どこへ行くにも、どこかの建物を経由しなくてはならず、回り道をしなくてはいけない。回り道を回避しようとすると、また新しい道を作らざるを得ない。何をするにもコストがかかってしまうため非効率で、とても暮らしやすい街とはいえないだろう。
こうした無秩序な街の形成は、ひとえに全体を俯瞰(ふかん)した都市計画のなさに由来する。計画なき街づくりによって、ミクロ的な視点では完結しているものの、マクロ的に最適化を行おうとすると破たんを来すのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.