住居入手と比較する“システム構築の特殊性”“街づくり”で理解するシステム構築入門(2)(1/3 ページ)

企業内に業務システムを導入するには、どういう方法があるだろうか? 個人が住む場所を手に入れる方法──「注文建築」や「建売」に例えて、そのシステム構築手法を解説していこう

» 2005年06月02日 12時00分 公開
[鈴木 雄介,@IT]

 前回「“建築”と“システム構築”の類似点・相違点」は、家(個人邸宅)の建築における“工法”をメタファとして、システムのアーキテクチャ設計の重要性を考え、同時に、システム開発では工法が未発達である点を指摘した。今回は、そういった現状で利用されているシステムの入手形態と構築手法について考えていきたい。メタファとして取り上げるのは、家の入手法と建て方だ。

注文建築か建売か

 自分の住む場所を手に入れようとすると、いくつかの方法がある。例えば、家(個人邸宅)であれば「注文建築」と「建売」がある。

 どちらの方法を選択するかは、施工主を取り巻く状況によるだろう。家族構成、仕事、住みたい場所、将来設計、あるいは趣味や手持ち資金に至るまでさまざまな要素を検討しなくてはいけない。すなわち、ライフスタイルに対する価値観次第というわけだ。実際にどちらの方法が選択されるか、その割合は建売が注文住宅の3分の1程度というデータがある。なお、米国では建売の割合が圧倒的に高いという。

 同じように企業の業務アプリケーションでも、2つの提供形式がある。「開発」と「パッケージ導入」だ。

 開発というのは注文建築に当たる。その会社の業務上のニーズに合わせて、ゼロ(とは限らないが)からソフトウェアを作り上げていくものだ。一方、パッケージ導入は建売に相当する。ある一定の業務のやり方を前提に作られたソフトウェア製品であるパッケージ・プログラムを購入し、それを使って業務を行うというスタイルだ。

 最近ではASPというソフトウェア提供方式も登場している。これはソフトウェアを使った分だけ、対価を支払うというもので、賃貸住宅に該当する。パッケージでシステム構築する場合との大きな違いは買うか、借りるかというコスト構造だ。パッケージ製品に比べて、機能や柔軟性が劣る場合が多いが、「初期コストが安い」「メンテナンス費が一定になる」「途中解約が可能」など、企業によってはメリットを感じられるだろう。

 業務アプリケーションをどの方式で導入するかについては、住宅と同じように企業の業務スタイルに応じて選択が行われるべきだ。ところが、ソフトウェアには家とは異なる特有の事情がある。

家具と備品が作り付けの住宅

 それはユーザーが自分で変更できる範囲だ。注文建築にしろ、建売にしろ、家具や備品は住む人が自分で持ち込む。これによって部屋の用途や雰囲気を変えることができる。

 ところが、企業アプリケーションの場合、ユーザーが開発者(建築会社に相当)に頼ることなく変更できる範囲が極端に限られている。いわば、家具や備品まですべて作り付けになっているのだ。棚やテーブル、ベッドだけでなく、クッションやタオルなどに至るまで、色、形、大きさ、配置のすべてが固定されてしまう。これは、システム工学が未発達であるため、家具のようなパーツによる機能変更を容易には行えないからだ(より正確にいうと、変更できるようなソフトウェアにすることはできるが莫大なコストが掛かる)。

 家具と備品込みとなると、完成品である建売住宅の中から自分が求める家に出合うのは困難を極める。そのため、開発もしくはパッケージ製品を購入してカスタマイズを行うという方法を取らざるを得なくなる。すなわち、家の模様替えができないので、新たに建物を建築するか、せっかくの建売住宅を改築するか……、いずれにしても建築会社(開発者)にお願いするしかないのだ。


       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ