「I-BLOCK」――LEGOブロックをつなげば、それが「プログラム」になる:ヘンリック・ルンド教授インタビュー(3/3 ページ)
MindStormsの開発に関わったことで知られるヘンリック・ルンド教授が新しい仕組み――「I-BLOCK」を開発した。LEGO Duploサイズのブロックの中にはマイコンが入っており、それをつなぐだけで“プログラム”になるという。来日した教授にその詳細を聞いた。
シマンテックスが……って言いかけたところで、ファンファーレが鳴ってしまった。見ているのは文法であって意味論ではなかったわけだ。
BEHAVIOR BRICKS
「数字、言葉に続いて、感情を組み立てるというのもある。自分の感情をブロックを組み立てることで表現しようというわけだ。
MITのKismit(*7)みたいな表情を持ったロボット――日本でもいくつも研究されているね――ではなくて、ロボットを作って自分の感情を表わすんだ」
そう言いながら、I-BLOCKを組み上げて、ダブルモーターブロックでぶるぶる震えるようなものを作る。さらにサウンドブロックもつなぐと、ビロロロロというちょっと低い音が出る。またブロックを組み替えると、ぶるぶるの動きや音が変わってくる。
でも、これは、どんな感情なんだろう。
「わからない」
『悲しい』を表わすにも、その人ごとにやり方があるというわけだ。みんながそれぞれ緑色のブロックで『悲しそうな』動きをするユニットを作り、それを組み合わせて『悲しい樹』を作るというようなプロジェクトもあったのだそうだ。このときも『悲しさ』はユニットごとにみんな違っていた。
「これは、アフリカのタンザニアの子供たちの写真だ。彼らはそれまで、(ゲームでもなんでも)コンピュータというようなものに触れたことはなかったのだけど、I-BLOCKはすぐに理解できた。そうして『アフリカ文化』を表現する動きを作っているんだ」
NEURAL BRICKS
「最後に、『NEURAL BRICKS』。ニューラルネットワークはわかるね。それを目に見える形で実現するのがこのブロックだ。これは、それを使った自動車だ」
MindStormsのパーツも使って作られた簡単な構造の自動車だ。左右の車輪はそれぞれ別のモータで動くようになっている。先頭部分の左右には光センサーがあって、それぞれが反対側の車輪のモータと『NEURAL BRICKS』でつながっている。
「最初は何も起きない。でも、光を当てていると、学習してそのうちモーターが動きだすようになる」
右側に光を当てると左の車輪が回って車は右を向く。つまり光のほうを向くようになる。
「光を何度も当てていると、どんどん学習が深くなって、反応が速くなっていく....。だいぶスムーズになってきた。」
「例えば、さらにここにタッチセンサーで『OK』ボタンと『NG』ボタンを付けて、正しく動作した場合には『OK』、間違った動作をした場合には『NG』と教えてやる『強化学習(reinforcement learning)』もできる」
これから
「これから? いまは、LEGO Duploを使っているけど、これをもっと他の素材で作ることは考えている。(ソファーをつかみながら)柔らかい素材で作ってみるとか。あるいは、温度によって色が変わる素材なんてのもあったらいいね」
商品化は、いい提携先があれば発売もしたい。大量生産すれば安くできるだろう(*8)。でも、今のところはあくまで研究段階だ。(シリアルの)コネクタもブロックの突起と一緒にはめ込まなければいけないあたりが、小さな子どもにはまだ扱いにくいところもあるし」
最後に気になっていることを聞いた。MindStormsのときには、1個のCPUが中央集権的に管理していたのが、I-BLOCKではたくさんのCPUの地方分権になっている。どうして変わったんだろう。
「(待ってましたという顔で)うんうん。まず、自然界の多くが分散(distributive)システムを採っているからだ。例えば、人間の脳や神経を考えてみてほしい。たくさんの神経が協同しながら働いている。もっと高いスケールものでは、アリの社会がある。数千のアリがそれぞれ独立に、でも共同して働いて、全体として一つのユニットにまとまっている。人工知能も、このスタイルを採るべきだと、私たちは信じている」
「もう一つの理由として、その方がトラブルに強い(fail-proof)ということがある。MindStormsみたいな中央集権システムは、中央のCPUが壊れちゃえば、それで終わりだ。でも、分散システムだったら、壊れたその部分――例えば10%――は使えなくなったとしても、残りの90%は生きている」
「(ロボットに限らず)プロジェクトというものは分散システムにしたほうが良い場合が多いんだ。これは大事」
「別の話なんだけど、いま、分散的なユニットで作った道具を置いた公園を作っている。まだ詳しいことは言えないのだけど、来年発表できる予定だよ」
そのときにはまた取材させてください。
「ぜひ、そうしてください。」
この後、写真を撮りながら、I-BLOCKをいじらせてもらったのだけど、私はもちろんだけど、岡田記者もかなりよろこんで遊んでいた。とにかく、つなぐと取り敢えずなにかが起こるのがいい。やっぱり、商品化してほしいです。
*7 シンシア・ブリアジール(Cynthia Breazeal)教授たちによる「表情」を持ったロボット。眉、目、鼻、口、耳しかない(顔の輪郭というものがない)んだけど、褒めれば喜ぶし、しかればすねるし、ちゃんと表情がある。一見グロテスクだけど、だんだん可愛くなるから不思議。公式サイトはここ。ムービーも見られる。
*8 PIC16F876は、1個数百円くらいするのだ。
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