「QRIO」、“勉強”に目覚める?(3/3 ページ)
ロボットは意識を持つことができるか?――「鉄腕アトム」の登場以来、日本人が常に抱えてきた疑問を、ロボット工学と認知科学の両面から検討する研究が進んでいる。ソニーが主催する“インテリジェンス・ダイナミクス”のシンポジウムでは、普段とちょっと違う「QRIO」のデモンストレーションが行われた。
最後に紹介するデモは、ちょっと様子が違う。なぜかエプロンをした研究員がディスプレイの横に立ち、QRIOが幼児と一緒になって踊りまくる様子をビデオで流していた。
実は、QRIOは保育所に通っていた(研究員も通っていた)。
今年3月から、米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の保育施設にQRIOを持ち込み、乳幼児とロボットの長期共生におけるインタラクションを検証している。幼児がQRIOに飽きないようにするために必要なもの、あるいはもっと根本的に「“飽きない”というのはどういうことなのか? を探るのが目的だ」という。
ただ、相手が乳幼児となれば、実験には細心の注意が必要になる。まず子どもたちに慣れてもらうため、QRIOよりも4カ月も早く研究員がのりこみ、“ボランティア保父さん”として働いた。QRIOが初めて保育所に入るときも、乳児のように毛布にくるんで連れて行った。「乳幼児に仲間だと思わせることが目的」だが、やはり最初はずいぶんと怖がられてしまったという。「その後も1週間ほどはQRIOの電源を入れず、ノッキングチェアに座らせているだけだった」。
子ども達がQRIOと遊ぶことに慣れてきた3月中ごろ。状況が少し変わってくる。「遊んでいてQRIOが倒れたりすると、子どもが助けるようになった」。これは、子どもがQRIOに対して恐怖心を抱かなくなった証拠であり、また相手に対して同情や憐れみの感情を抱くのは、関係が発展するための条件でもあるという。
3月末になると、本格的にインタラクションの実験が始まった。QRIOには、子どもにタッチされると笑い声をあげる仕掛けを付けた。子どもたちの輪の中にいるQRIOは、頭をこづかれる度に笑い声をあげ、なにやら幸せそう……。子ども達の笑い声もヒートアップしている。
現在では、子どもたちがQRIOとダンスを踊るまでになっている。安全のため、QRIOの下半身は研究員がリモートコントロールしているが、上半身は完全に自律動作だ。一方、子ども達はといえば、完全にハイな状態でQRIOと踊りまくる。「QRIOが一緒にいると、子どもたちのはしゃぎ方が明らかに違う。QRIOが教室のムードを盛り上げている」。子ども達を飽きさせない、ハイテクエンターティナーの誕生だ。
数年前、「ROBODEX」の会場で「感情を持つロボットが登場するのはいつか?」と質問された土井利忠氏は、「現在のノイマン型コンピュータを使用している限り、無理だ」と率直に答えた。ロボット研究者にとっては常識だが、このとき集まった報道関係者の顔には、少し落胆の色があったような気がする。
しかし、気を落とすことはない。インテリジェンス・ダイナミクスの研究は、人間を参考にしながら、人間とは違った方法で、ロボットが人間とうまくつき合える方法を探るものだ。感情をロジック化することは不可能でも、ロボットは人の感情を動かすことができるようになる。実際、子どもたちと仲良くダンスしているQRIOの姿は、漫画や映画の中でみるロボットのイメージそのものだ。
土井氏はシンポジウムの開催にあたり、“人間とロボット”の関係を“鳥と飛行機”に例えた。「成層圏を超音速で飛べる鳥はいないし、電線にちょこんととまる飛行機もないが、両者の優劣を比較する人はいない。同様に、ロボットが生物と違うからといって、卑下する必要はまったくない。部分的には人間より劣るかもしれないが、部分的には遙かに優れた自律システムを実現できることに間違いはないからだ」。
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