記録型にもつながる? 2層BD-ROM製造の最前線:次世代DVDへの挑戦(2/2 ページ)
映画スタジオの話によれば、夏頃には北米でBD-ROMビジネスが開始されることになりそうだが、2層BD-ROMを製造している現場はどのような状況なのだろうか? 松下電器がカリフォルニア州トーランスに持つ「PRDCA」の2層BD-ROM複製ラインを取材した。
その手法については社外秘の情報が含まれるうえ、以前、別媒体でかなり細かな点まで紹介したことがあるため、ここでは多くを触れない。ただし、手法については確立され、実際にラインが動作していることは間違いない。たとえばディスクの反りに対しては、ラベル面側に誘電体を蒸着させることで吸湿を防ぐなどの対策が行われており、2層目の凹凸も紫外線硬化樹脂から剥がれやすいある素材をスタンパとして遣うことで解決している、などだ。
2層歩留まり70%を2月中に達成
PRDCAでBD-ROM複製ラインの開発を担当している阿部伸也氏は、「われわれは大きなことを言うつもりはありません。2層ラインの出来具合に関しても外に向けてアピールするのではなく、淡々と開発を進めれば良いと考えていました。従って歩留まりに関しては、かなり控えめな数字を話していますが、それでも80%以上という数字は言っています。リアルな数字としては1層で80%台半ばぐらい、調子の良い状態ならば90%を超えることもあります。そうしたやや控えめな言い方で、2月中には2層で70%ぐらいの歩留まりは出せると明言できるレベルまでは開発が進んでいます」と話す。
松下電器は大規模にはディスク複製事業を行っていないが、一部のニーズに応じるためPDMC(パナソニック ディスクマニュファクチュアリングアメリカ)で、現在もディスク製造事業を行っている。BD-ROMにおいても、初期の立ち上げ時にはディスク複製事業を行う予定だという。
またBD-ROM複製ラインを充実させるため、日本のオリジン電気に対して技術供与を行い、オリジン電気の製品としてPRDCAで開発した技術を組み込んだ複製ラインが販売される。以前このラインを見学した時には、多くのオリジン電気の技術者も開発に携わっていたのだが、すでにオリジン電気の技術者は本社へと戻り、自社製品の開発を進めている。パイロットラインであるPRDCAのラインをコンパクト化し、実際に販売を行える製品の開発を行うためだ。製品出荷は今春を予定している。
実はカバー層への泡混入がなかなか解決できず、それが歩留まりを下げていたそうだが、紫外線硬化樹脂を垂らすノズル部分に問題があることが判明し、それを改良して要素技術の開発はいったん完了していたのだそうだ。
複製ラインの中に入れ、良品と不良品を分別する検査装置に関しても、ドイツのバスラーと2層BD-ROMの検査が可能な装置を開発し、すでにラインの中に組み込まれていた。
実際に見学した製造装置の検査結果モニターには、複数並列で設置されているスピンコートカップの組み合わせ別に分類し、良品と不良品が一目でわかるグラフが表示されていたが(写真撮影は禁止)、調子の良いカップ同士での結果は目標値以上の成績を残している。トータルでは目標の70%は下回っているようだが、取材が1月のCES直後だったことを考えれば、目標値に届きそうなリアリティのある数字だったとは報告しておきたい。
記録型にもつながるROM製造ラインの開発
さて、実際に良品と判断されたROMを手に取ってみたが、その中身は最新のオーサリング結果が入っており、その場にあった古い仕様のBD-ROMプレーヤー試作機では再生できない。もっとも、ここまで来て疑う必要もなかろう。ここまで開発費をかけて、見せかけだけの複製ラインを作るとは考えにくい。加えてもう数カ月もすれば、実際に製品が出てくるのだ。現段階でうまく出来ていないようならば、年内に2層BD-ROMソフトが登場することはない。現時点でリアルではない数字を出したところで信用を失うだけだからだ。
一方、阿部氏はDVD-RAMメディアの製造ラインや、2層DVD-RAMの試作、2層BD-REの製造ライン開発などにも携わった人物。もともと、松下電器が記録型メディアに強いことを考えれば、この先にはBD-Rも見据えているのでは? と勘ぐりたくなる。
阿部氏は、この点について何もコメントしなかったが、すでに発表されている松下製BD記録メディアの価格に関して「なぜあの価格での発表になるのか、僕にはわかりません。しかし、技術的にはずっと安価な価格で販売できる程度の難易度で、BD-Rを作れるようになるでしょう」とだけ話した。
もっとも、BD-ROMの複製技術がBD-Rの製造技術につながっているということは、この手の技術に詳しい人ならば想像できるのではないだろうか。以前、ソニーに取材した時、「BD-Rの特徴は、反射率が低くてもかまわないこと。その結果、色素ではなく金属皮膜を用いた相変化のRが作れます。金属皮膜を用いたRは、色素塗布よりも厚み精度を桁違いに高くできます」と話していた。
ライトワンスの記録層は、1回の蒸着で終わるROMの反射層よりも行程が多くなるが、しかし基本的な作り方は同じだ。BD-Rの記録層が金属皮膜で良いのであれば、BD-ROMとよく似た手法でBD-Rを量産できることになる。
ソニー、松下、そして一部のメディアメーカーは“とある理由”で、BD-Rは意外に安価になると話していたが、あるいはその鍵はBD-ROM複製ラインとBD-R製造ラインの類似性にあるのかもしれない。
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