主要メーカー総チェック、大画面テレビの選び方:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(5/5 ページ)
大画面テレビの“いま”を誰よりも知り尽くした麻倉氏がこの夏こそ大画面テレビを手に入れたい! という読者にアドバイス。今年前半の大画面テレビの動向と“この夏オススメ”の大画面テレビとは?
――最後に有機ELやFEDなど、姿を現し始めた次世代デバイスの動向について教えてください。
麻倉氏: 今年、2007年は次世代デバイスデビューの元年になるでしょう。有機ELはソニーが今年中に製品を投入することはほぼ確実で、おそらくは秋のCEATEC JAPANでお披露目が行われ、11型の製品が年内に市場に出回るはずです(関連記事1、関連記事2)。
ソニーは2000年のCEATEC JAPANで有機ELディスプレイを展示していますが、その当時から薄さと画質が両立されていることに驚きの声が上がったのを覚えています。そこから苦節数年、その間に薄型テレビの主流は液晶とプラズマが2分することになりましたが、年頭のInternational CESであれだけのクオリティを持つプロダクトが展示されていたことには私も驚きを隠せませんでした。
ソニーの有機ELディスプレイは1月のInternational CES、4月の国際フラットパネルディスプレイ展で展示されていましたが、実はチューナーまでも既に搭載されていたのです。その映像はあいまいさを廃した、非常に美しいものでした。
精細感が非常に高いのですが、なぜそのように感じられるかは実はまだよく分かっていないのです。これは私の想像ですが、液晶はバックライト、ブラウン管は電子ビーム、プラズマはプラズマ放電に蛍光体と、これまでのディスプレイは発光体と映像体がイコールではなかったのですが、有機ELは発光体=映像体の固体ディスプレイであることにその要因があるのではとにらんでいます。
カンデラ値などのスペックだけでいえば液晶の方が高いのですが、見え方に着目すると今説明したように、有機ELのほうがきれいに見えます。有機ELは「比較的低いスペックでも高画質」が大きな特徴ですね。
今まではメディア(に収録されるコンテンツ)の方が高画質で、そこに近づくのがディスプレイでしたが、有機ELではメディアを上回る映像を映し出すことができます。これはショックとしか言いようがない出来事なのです。“インパクト・ディスプレイ”とも呼べる存在となるはずなので、大いに期待したいですね。
――FEDはどうでしょうか。開発を進めるエフ・イー・テクノロジーズは事業企画会社という位置づけのため、直近の製品化は見込めませんが期待されていることにはかわりはありません。あと、先日残念ながら当面の見送りが正式発表されたSEDについてはいかがでしょうか。
麻倉氏: エフ・イー・テクノロジーズは2009年に放送用モニターとして実用化するとしていますが、ソニーの有機ELと見比べると違いはハッキリしていますね。細かい部分も鮮明に映し出しますが、全体としてはしなやかな画調でブラウン管的なニュアンスを持っています。ブラウン管の後継としてのFED、液晶の後継としての有機ELという位置づけになるのではないでしょうか(関連記事)。
これまでは各デバイスは「表示」に関するスペックを競っていましたが、表示ということでは、いずれ同じ水準になります。そこで次世代のデバイスでは絵の構造やテイスト、コンセプト、ピクチャートーン(画調)といった「表現」を競う段階なるでしょう。映像がヒトの心へどのような影響を与えていくか、それを語れる時代になりつつあるように感じます。高精細なハイビジョンが一般化した時代にこうしたデバイスが登場してきたことは喜ばしいことですね。
SEDは55型の民生機を目指して開発が進められていましたが、残念ながら外的要因に影響され、私たちの期待に応えてくれる状態ではなくなってしまいました。これ以上の延期を発表せざるをえない状況に追い込まれては問題ですが、SEDの灯りを消すことなく、取り組みを続けていって欲しいと思います(関連記事)。
麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴
1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している。音楽理論も専門分野。
現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。
著作
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー、2007年)──"いい音"で聴くと、感動はもっと大きくなる!デジタルオーディオの楽しみ方を、iPodからハイエンドまで、やさしく詳しく解説する
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント
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