「DRMフリー」――新時代のオーディオコーデックを考える:デジモノ家電を読み解くキーワード
AppleとEMIによって始まった「DRMフリー」の流れは、これからの楽曲オンライン販売のあり方を大きく変える可能性を秘めている。
AppleとEMIの“DRMフリー戦略”が呼んだ波紋
EMI MusicがiTunes StoreでDRMフリーの楽曲を提供するという4月2日の発表は衝撃をもって受けとめられた。Appleのスティーブ・ジョブズCEOは今年2月にDRM廃止論を表明していたが、成果がすぐ現れるとは誰も予想していなかったはず。
その数日後には米Microsoftが、Zune MarketplaceでEMIの楽曲をDRMフリーで提供すると発表。5月には米Amazonも音楽オンライン販売への参入を表明、EMIを含む1万2000を超えるレーベルの楽曲をすべてDRMフリーで提供する方針を明らかにした。MP3tunes.comなどDRMフリーのオンラインストアは以前から存在したが、今回の一連の流れは、潤沢なコンテンツを抱える大手レーベルが参加したことに意味がある。
DRMフリーの楽曲は“+α”で勝負
ここで注目したいのが、各オンラインストアが採用するコーデック。iTunes Storeは従来どおりAAC、新規参入のAmazonはMP3。公式にはコメントしていないが、Zune MarketplaceはWMAを採用する公算が高い。
DRMフリーとともに、高ビットレート化の流れもある。iTunes Storeで扱うDRMフリーのAAC(iTunes Plus)は、帯域に従来比2倍の256kbpsを適用。Amazonはビットレートを公表していないが、プレミアムダウンロードと称されたサービスであることから、低いとは考えにくい。コーデックの種類こそ違えど、DRMフリーで高ビットレート、価格は少し高めという「+α」を前面に出す販売戦略は、各オンラインストア共通と見ていいだろう。
DRMフリーの行き着く先
オーディオコーデックを語るとき、音質を直接左右するビットレートに注目が集まりがちだが、前述したとおりDRMフリー時代では高ビットレートが当たり前、もはや高音質という触れ込みでは商品の差別化が難しい。各オンラインストアとも、楽曲の品揃えはもちろん、アルバムジャケットの画像や歌詞など"おまけ"の提供に力を入れるはずだ。
再生機器を増やすための取り組みも始まっている。先週には、ヤフーが「Yahoo! ミュージック」でiTunes Storeとの連携をスタートさせ、従来はATRAC3に限定されていた品揃えにiTunes StoreのDRMフリーなAACが加わった。iPodでもウォークマンでも聴けるため、かなりの集客効果が見込まれる。
しかし、DRMフリーと再生機器増加の取り組みが行き着く先は、「コーデック選択の自由」だと筆者は考える。実際、ロシアの楽曲販売サイトAllofMP3(著作権問題により閉鎖される見込み)では、購入時にMP3やAAC、WMAなどのコーデックをユーザーが選び、自由にエンコード方式(CBR/VBR)やビットレートを決定できる。DRMという足かせが消えつつある現在、このようなオンラインストアが増えても不思議ではないはずだ。
執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)
ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。
関連記事
- デジモノ家電を読み解くキーワード:HDMI(2)――デジタル時代のAVケーブル
ハイビジョン対応AV機器の分野で採用が進む「HDMI」。今回は、その規格の変遷と現状を見てみよう。 - デジモノ家電を読み解くキーワード:HDMI(1)――デジタル時代のAVケーブル
薄型テレビなどのハイビジョン対応AV機器で採用が進む「HDMI」。今回は、デジタルAV機器をケーブル1本で接続できる「HDMI」について解説する。 - デジモノ家電を読み解くキーワード:EXIF(2)――JPEG画像を引き立たせる「EXIF」
デジタルカメラで撮影するJPEG画像には、さまざまな情報を保存するために「EXIF」と呼ばれる規格が利用されている。今回は、そのEXIFを応用した活用方法を紹介しよう。 - デジモノ家電を読み解くキーワード:EXIF (1)――JPEG画像を引き立たせる「EXIF」
デジタルカメラで撮影した写真には、知らず知らずのうちたくさんの情報が記録されている。今回は、その「EXIF」が制定された理由と基本的な仕組みについて説明しよう。 - デジモノ家電を読み解くキーワード:MPEG-4(5)――MPEG-4のつくりかた
これまでMP4コンテナの仕様を中心にMPEG-4ムービーファイルを説明してきたが、MPEG-4編ラストとなる今回は、MPEG-4生成ツールについて考えてみたい - デジモノ家電を読み解くキーワード:MPEG-4(4)―― MPEG-4とコーデックの関係
MPEG-4コンテナの要件を満たすファイルが「MP4」だが、世の中には“映像部分だけMPEG-4”なAVIファイルが流通している。今回は、MPEG-4とコーデックの関係をふまえつつ、そのようなAVIファイルとの違いを説明してみよう。 - デジモノ家電を読み解くキーワード:MPEG-4(3)――動画のクオリティを決定づける「プロファイル」と「レベル」
前回はMPEG-4に採用された概念「コンテナ」について説明した。今回は、そのコンテナにどのようなコンテンツを詰め込むか規定する「プロファイル」と「レベル」について説明する。 - デジモノ家電を読み解くキーワード:MPEG-4(2)――動画や音声などを“食べる”ための「トレイ」
前回はMPEG-4がいわば“カフェテリアのトレイ”となっている構造について簡単ながら説明した。今回は動画や音声などを実際に再生するために必要な概念である「トレイ」について解説する。 - デジモノ家電を読み解くキーワード:MPEG-4(1)――“カフェテリア”方式の動画フォーマット
よく見るけれど、人に説明できるかと言われればちょっと……。この連載ではデジモノ家電を理解する上でキモになる各種のキーワードを解説していく。今回のテーマは、よく耳にするものの正確な説明が難しい「MPEG-4」。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.