「FED」――ブラウン管の後継? 新しい薄型テレビ:デジモノ家電を読み解くキーワード
薄型テレビも普及するに従い、画質が重視される傾向にある。今回は、有機ELに並ぶ次世代ディスプレイの一翼と目される「FED」について解説する。
文字通り「薄さ」は薄型テレビの重要なポイントだが、実際には画面の明るさや残像感の程度も重視される傾向にある。今回は、画面の明るさと残像感の少なさが特徴の「FED方式」を採用した薄型テレビについて解説してみよう。
ブラウン管とよく似た発光原理
薄型テレビといえば液晶かプラズマと相場は決まっているが、数年先はわからない。年末にはソニーから有機ELテレビが発売されるほか、来年以降にはキヤノンが開発を進めるSEDテレビも控えている。そしてもうひとつ、薄型テレビの有力な選択肢と目されているのが今回紹介する「FED」だ。
FED(Field Emission Display/電界放出ディスプレイ)は、ブラウン管並みの明るい画面が特徴。発光原理もブラウン管とよく似ており、電子銃(エミッター)から真空中に放たれた電子が蛍光体に衝突して光を得る、自発光型のディスプレイ技術だ。1画素を構成する超小型ブラウン管を並べた構造、とでもいえばわかりやすいだろうか。ただし、ブラウン管では1基の電子銃が発光面を照射するため、数センチ〜数十センチの距離が必要だが、FEDでは極小の電子銃が1つの画素あたり1万ほど用意され、その距離も数ミリ程度ですむ。
キヤノンが開発を進めるSED(Surface-conduction Electron-emitter Display)も、画素ごとに割り当てられたエミッターが電子を放出するという原理はFEDと共通だ。しかし、一般的にFEDが円錐状態のエミッター(スピント型)を用いるのに対し、SEDではナノスリットと呼ばれる薄い膜状の装置を利用する。
高コントラストと良好な動画応答性能
よく似た発光原理を持つだけに、FEDの長所もブラウン管と重なる点が多い。自発光型ゆえに画面のコントラストは高く、視野角も広い。表示は一瞬発光したあとすぐ消えるインパルス型駆動であり、次の信号を受け取るまで同じ状態を維持するホールド型の液晶に比べると、動画応答性能は良好。アナログ的な強弱で階調や色を表現できるため、自然な発色を得られることも大きな長所だ。
薄さ以外にも、ブラウン管より優れている点は多い。ブラウン管の場合、画面中央から離れるほどフォーカスが甘くなる傾向があるが、1つの画素ごとに多数のエミッターを持つFEDの場合、画面の隅までフォーカスは均一だ。消費電力も低く、液晶テレビの約半分といわれるほど。
しかしこのFED、量産化という点で液晶やプラズマに大きく出遅れている。長年FEDの技術開発を続けていたソニーも、2006年末にはソニー本体でFEDテレビを生産することを断念、新たに設立した別会社へFED関連資産を譲渡し、その事業化を委ねた。当面の目標は液晶でもプラズマでもなく、いかに生産コストを抑えるかということにあるようだ。
執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)
ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。
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