ケータイメールが奪ういくつかの大切なこと:小寺信良(3/3 ページ)
携帯電話のメールはその特性から、「常に誰かとつながっている」というこれまでになかった状態を生み出した。確かに便利ではあるが、その便利さの代償となるものはなにか。
今だから再定義が必要
当然、現実社会ではそれだけ沢山の時間を、メールのみに投入することはできない。ということは、リアルでは何かをしながら、片手間にメールをすることになる。あるいは逆に、メールをしながら片手間に現実社会のほうの作業をすることになる。
例えば家族で食卓を囲んで話をしている最中に、よそを向いてメールを始めるような事態が起こるのだ。これは大人でもままあることだろう。親としては躾として、目の前の人をほっとらかしにして、バーチャルな人間関係に没頭するのは正しくないと諭したいところである。どちらが大事か、ということはあるにしても、礼儀として目前の人間に失礼となるような行為は慎むべきだろう。
だがおそらくそれをやる本人にとっては、メールによるコミュニケーションが、バーチャルであるという意識はない。ある意味それは正しくて、ケータイの向こうには生身の人間が居る。その人に敬意を払うことも、もちろん重要である。
その両方のバランスを取るためには、今更ながらではあるが、社会におけるITインフラの再定義というか、約束事みたいなものを、ある程度ガイドライン的に構築しなければならないのかもしれない。
ただそれはそれほど難しいものではないように思う。メールのやりとりの終わらせ方を学ぶことも1つの方法だし、もっと絞り込めば、すぐに返事を返さないのは「悪」ではない、という基本的なルールを浸透させるだけで、十分な効果が望めるだろう。
もう1つの教育は、ITインフラの性質の違いについてである。ケータイでもPCでも、メールとネットの両方が可能だが、それぞれが全然特性の違うものという理解が薄いのではないかと思う。
メールは1対1だが、その連鎖が積み重なれば、うわさ話が広がるスピードはそれなりに速い。だがネットに載せるのは、そういうものとは比較にならない。ブログやSNSを「限られた友人に一度に知らせるためのツール」という程度の認識でいると、大変なことになる。
昨今の吉野家、ケンタッキー、バーミヤンといったフードチェーンにおける連続した騒動は、まあその行為の是非は置いとくとして、情報革命をステップで体感した人間ではなく、全部を区別無くフルセットでほいっと渡された人間が陥りがちな過ちだろうと思う。
このようなリテラシー向上も、関係団体の間で詰めていくようなフェーズが生まれればいいと思うし、それに関してMIAUのような団体が活動していくこともあり得るだろう。しかし最終的には教育機関などに関心を持っていただかないと、なかなか成り立たない話である。
常識というのは、社会のあり方によって変わるものだ。それをどこに置くのか、誰が決めるのかという問題もある。だが、礼儀正しいという日本的な美点を残しつつ、テクノロジーの恩恵に浴するという方向で社会のあり方を考えるのも、また大事なことだろう。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。
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