“これはもう立派なオーディオ機器だ”――オンキヨー「APX-2」を鳴らす:デジタルアンプ内蔵PCの実力は?(3/3 ページ)
「PCの音質はイマイチ」というのは半ば定説になりつつあるが、それに異を唱えるのがオンキヨーだ。同社の技術を結集した「APX-2」が奏でる音とは?
APX-2を手持ちのオーディオ機器と組み合わせた結果は?
ここからは、音楽再生の品質について、筆者の主観による感想をお知らせしよう。今回入手したのはAPX-2の本体のみだったので、筆者の手持ちのオーディオ機器と接続し、PureSpace経由でさまざまな楽曲を再生してみた。
最初にあまり考えもなく、手ごろなスピーカーをつないでみようということで、フルレンジスピーカーの定番「BOSE 101」を接続してみたのだが、これは見事に失敗した。まったくイコライザーを介さないPureSpaceの再生と、フルレンジスピーカーのBOSE 101を組み合わせると、ソロボーカルなどはよいのだが、オーケストラなど帯域が広く、ダイナミックレンジが広い音楽はボロが出てしまった。
PureSpaceにはイコライザーがなく、音質の調節できないので、スーパーウーファーとの組み合わせは必須と感じた。音質的に堅く、ストレートでS/N比重視のAPX-2と、音を回り込ませるBOSEの相性はあまりよくないようだ。もっとも、報道関係者向けの製品説明会ではAPX-2をわざわざB&W「ノーチラス801」と組み合わせて再生デモを行い、内蔵デジタルアンプで破たんせずに駆動できることをアピールしていたこともあり、少なからずスピーカーとの相性はあると思われる。
気を取り直して、2ウェイスピーカーのソニー「SS-AL5mk2」をつないだところ、本来のよさが引き出せた。DACからデジタルアンプまでのストレートな構成が効いているのか、カタログスペックと同様のS/N比のよさだけでなく、立体感もオーディオ機器として良好なレベルだ。従来機種は、高級ミニコンポとしては十分だったが、本格的なオーディオ機器としては少し物足りなさを感じた。しかし、APX-2では確実に再生品質の向上が体感できた。
それでは、APX-2を既存のオーディオ機器と組み合わせて使うとどうなるのか。試しにAPX-2のプリ出力をサンスイのプリメインアンプにつないでみたが、こちらも良好だった。APX-2のデジタルアンプとは一味違うアナログアンプらしい濃密な音を楽しむことができた。バーブラウンのDACの素性のよさが効いているのだろう。
これだけの音が楽しめるのであれば、APX-2でのCDリッピングは、音質の劣化が伴うAACやMP3ではなく、WAVかWMA Losslessで楽しんで欲しいものだ。また、e-onkyo musicでダウンロード販売されている24ビット/96kHzの高品位オーディオコンテンツもぜひ体験して欲しい。APX-2本来の実力が発揮できるはずだ。
オーディオ機器としてのPCがあってもいいじゃないか
最後にAPX-2を考察すると、単にPCに高品位なオーディオ機器を搭載したのではなく、オーディオ機器にPCの機能を詰め込んだと言えるほど、オーディオ機器の能力の高さが目立つPCだった。今回はPureSpaceを中心に評価したが、もちろんCarryOn Music 10を含めてWindows上で再生できるソフトはすべて高品位に楽しむことができる(その場合、PDAPは使えないが)。ポットキャストやネットラジオなどのコンテンツも高音質に楽しめるとなれば、音楽好きにはたまらない存在だろう。
筆者は、ポータブルオーディオプレーヤーで聴きたい曲だけをPCにためて、家では音質を重視して専用のCDプレーヤーで再生するひねくれ者だが、APX-2なら片っ端からLosslessでリッピングし、ジュークボックスとして常用してもよいと感じた。もし、APX-2が本体の前面に曲目リストを表示できる液晶モニタを搭載し、パワーアンプを省く代わりにHDMI端子を装備したら、個人的には真剣に購入を検討するだろう。それぐらい、APX-2はオーディオ機器として正当な品質を持った製品だ。
しかし、APX-2をPCとして見ると、第1世代の製品から1年たった後継機種なのにCPUやチップセットがまったく同じで、メインメモリは1Gバイトでユーザーによる増設が保証対象外となり、メモリカードリーダーもなく、Vista Premium搭載なのにリモコンにWindows Media Center起動ボタンがないなど、メーカー製PCとしては異例づくしと言える。この仕様であれば、OSはむしろVista Basicのままでよかったのではないかと思う。
ちなみにWindows Vista Service Pack 1については、2008年3月31日現在メーカーが動作確認を行っているところで、アップデートはしばらく待つ必要があるとホームページで告知している。
さて、APX-2にとっては重要でない部分だが、PC部のパフォーマンスもチェックしてみよう。Windowsエクスペリエンスインデックスのスコアとベンチマークテストプログラムの結果を見ると、チップセット内蔵グラフックスの性能が足を引っ張る結果になったが、Windows Aeroの動作は行えるレベルにある。HDDは容量、性能ともに満足できるが、メインメモリの容量は1Gバイトと必要最低限なので、Vista搭載PCとして多目的に使いたい場合には、有償の増設サービスを利用してメモリを2Gバイトに強化したほうがいいだろう。
APX-2は「オーディオとして使って、PCとしてはあまり使わない」というゼイタクができる人ならば別だが、普段使いのPCとしても使いたいのなら、少々の覚悟が必要ではある。ディスプレイやスピーカーが別売ながら25万円前後という実売価格を見ても、手軽に購入できるものではない。
個人的には「もうちょっと万人向けに振ってもよいのでは?」と思う一方、メーカー製PCの仕様が画一化しつつある中、「こんな個性的なPCがあってもいいじゃないか」と感じさせるに十分な魅力を持った製品だった。オンキヨーの「原音質の思想・追求」という思想に賛同し、既存のPCが発する音に満足できないならば、積極的に検討してみる価値はある。
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