CEATECで発見した「近未来のテレビ像」:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(3/3 ページ)
盛況のうちに閉幕した「CEATEC JAPAN」。会場で発表された新製品は少なかったが、近未来のテレビを指し示す指標は随所に発見できた。今回の「デジタル閻魔帳」では、麻倉氏が見つけた「近未来のテレビ像」について語ってもらった。
――今年特に目についたのが「3D」と「超解像」に関する展示です。まだ製品レベルへの実装例は少ないですが、これらについてはどうご覧になりますか。
麻倉氏: 3Dは突如、出現した感じがしますね。昨年のCEATECにもBS11の立体映像コーナーはありましたが、今年ほど3Dという展示が目立っていた感じはありませんでした。今年はKDDIやパナソニック、三菱電機、情報通信研究機構(NICT)、日本ビクターなどさまざまなブースが3Dに関する展示を行っており、業界的にも注目度が高まっているのを感じました。
では、なぜいま3Dなのでしょうか。そこには「ポストフルHD」の話題作りという側面があります。ポストフルHDの方向性は大別して2つあり、ひとつはフルHDよりもさらに高精細化を進めた4K2Kや8K4Kのスーパーハイビジョン、もうひとつがエンターテイメントの方向にかじを切った3Dです。
映像の3D化には、アメリカ映画産業の意向が強く働いています。映画館では今までの上映(2D)よりも利益が見こめる3Dでの上映が増えており、ハリウッド大手スタジオは全社を挙げて3Dを推進しているそうです。スティーブン・スピルバーグ氏とジョージ・ルーカス氏が3D化のげきを飛ばしたという話もあります。
各スタジオの新作の半分は3D化されるという話もあります。こうして映画の3D化が進めば「家庭でも3Dを」という流れは自然なもので、BDの普及(DVDからの移行)を図る仕組みとしても3Dは有効に機能します。BDは2つのストリームを記録できる容量を持ちますし、PinPも備えていますからね。BDA(Blu-ray Disc Association)の議題に3D対応はまだあがっていないそうですが、BDにハリウッドスタジオの意向は反映されやすいですから、いずれ「BDで3D」という流れは表れるでしょう。
CEATECではパナソニックがプラズマを使って3D映像を見せていましたが、個人的には3Dの表示装置にはプロジェクターが適するのではと考えます。偏光メガネが必要な3Dの映像は日常的に見るものではありませんから、“ハレ”のデバイスであるプロジェクターとは、属性的な親和性が高いと思えるのです。パナソニックは「プラズマで3D」を推進したいようですが、これはプロジェクターの市場があまりに小さく、影響が小さくなってしまうからでしょう。
人間はそもそも左右の目で立体視を日常的に行っています。そのため、生(ライブ)の映像を自然なかたちで3D化するのは非常に困難です。人間の頭の中の3Dと人為的に作りだした3Dでは、作り出した3Dはどうしても不自然になってしまいますからね。その不全さを解消するには、フルHDでもまだまだ解像度が足らないのです。
さきほどポストフルHDの方向を2つ述べましたが、高解像度か3Dかの選択ではなく、高解像度化と3Dは同時進行していくべきでしょう。そこで有用なのが、超解像ではないでしょうか。
DVDや地デジをフルHD化するのも確かに有用な使い道ですが、フルHDを4K2Kや8K4Kなどの超解像度に高解像度化する、あるいは2Dを3D化することに面白みがあると思います。最初からフルHD映像として撮影した映像に対して超解像処理を行い、よりディテールを深めるという使い方もありでしょう。
これまでは技術が個別で開発され製品へ実装されてきましたが、CEATECの各展示を通じて、ポストフルHDの「横ぐし」が垣間見えるようになりました。「8K・超解像・3D」という各要素が、パッケージ化される日が来るのかもしれませんね。
麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴
1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。
著作
「絶対ハイビジョン主義」(アスキー新書、2008年)――身近になったハイビジョンの世界を堪能しつくすためのバイブル
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント
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