21世紀型フェアユース論:小寺信良の現象試考(3/3 ページ)
デジタルとネットの世界における著作権侵害について、その手段や方法ではなく、抽象的な判断で可否を定めようというのが「フェアユース」だ。「日本版フェアユース」として議論も進められているが、注意しておくべき点はある。
ネット権の謎
日本版フェアユースは、産業面からも消費者側からも、問題らしい問題は見あたらない。だが権利者にとっては、自分たちのあずかり知らぬところで権利が取り上げられるということに納得がいかないようだ。10月1日に音楽著作権関連7団体が知的財産戦略推進事務局へ要望書を提出し、ヒアリングが行なわれた。
しかし権利者の中でも賢い人たちは、フェアユースに反対しても自分たちの利益が増えることにはならないということは、すでに気づき始めている。補償金制度のように、架空の損失に対して補てんするという話では全然ないからだ。 ただ立場上、綱引きしないわけにはいかなくなっているだけのことである。
その反面、政治的な動きとして注意すべきは、この日本版フェアユースがどうも「ネット権」とセットで考えられているというところである。ご存じのようにネット権は、2007年末にその原型を角川歴彦氏が発表したのち、「デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム」からその全貌が公表された。
ネット権の基本は、権利者が不明の著作物に対して、著作権などをネット上での公開に限って制限し、「ネット権」の保持者が権利処理なしにビジネスができるという仕組みだ。そのかわり権利者が明らかになった場合は、収益に応じた額を公正に配分する法的義務を負うとした。「モノが先、金は後」的な手法である。
確かにこの方法は、これまでデッドストックとならざるを得なかったコンテンツを、ネット上でビジネス展開できる。だが有識者から、問題点の指摘が相次いでいるのも事実だ。例えばそのネット権を保持するものが、従来のコンテンツ制作ピラミッドの頂点に君臨してきた映画会社やテレビ局を想定するといったことから、新たな搾取構造の誕生ではないかという懸念がある。また、その対価は具体的にいくらなのかといったプランも、まだ出てきていない。現状表に出ている情報で知る限りのネット権は、かなりヤバい。
このような議論の場が、9月9日に発足した「デジタル・コンテンツ利用促進協議会」なのだと思っていた。筆者もこの協議会に参加したが、帝国ホテルで行なわれた大変立派な設立総会以来、いまだ一度の会合も開かれていないばかりか、事務局からの連絡もない。さらに公式サイトすらも存在しないし、仮称と言われた会の名称がその後どうなったかも知らない。
一体デジタルコンテンツの何をどうしようとしているのか、参加者にすらさっぱり分からない、実体不明の組織と化してしまっている。会費5000円なりの領収書が出てこなかったら、あれは夢だったんじゃないかと思えるほどである。
日本版フェアユースとネット権構想は、ネットでのコンテンツ流通促進という目的では共通している。フェアユースはベンチャー企業にも戦うチャンスを与えることになり、ネット権はコンテンツ産業大手が対権利交渉の切り札となるだろう。だがこの両者は、実際には全然関連がない。車の両輪という感じでもないのだ。
今度こそ「官」の中ではなく、民意が反映される「民」の場所で議論を進めたいのだが、筆者のように何の後ろ盾もない人間には、モノを言う順番は永久に回ってこないのだろうか。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。
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