2009年、薄型テレビはどうなる?:本田雅一のTV Style
今年の年末商戦は、薄型テレビの販売価格が予想以上に下がった。そうした面だけを見ると、消費者にとってはよい年だったと思う読者もいることだろう。しかし、事情はかなり複雑だ。
今年の年末商戦は、薄型テレビの販売価格が予想以上に下がった。そうした面だけを見ると、消費者にとってはよい年だったと思う読者もいることだろう。確かに値段は下がった。しかし、普及と同時にコストダウンが進み、結果として値段が下がったのか? というと、少々事情は異なる。
今年の値下がりは、世界的にテレビ需要が減ったことで商品がダブつき、特定メーカーが商品の回転を上げるために店頭価格を下げたことが直接の原因といわれている。値下げが激しかったため、他社もそれに追随するほかなかった。
つまり、後ろ向きの値下げであって、中長期的に見れば消費者にとっても、あまりよい面はない。低価格偏重傾向が強くなりすぎるとメーカーは疲弊し、製品の進歩が遅くなって品質も低下する。長い目で見ればよいことはほとんどない。
2009年は低価格化に対応するため、コストパフォーマンス追求型のテレビの比重が高まっていくだろう。画質や自動画質調整、あるいはHDD搭載、ネットワーク対応などの多機能化といった高付加価値路線中心では、充分な数をさばくことが難しい。
では高付加価値のテレビは絶滅してしまうのかというと、そうでもない。むしろ企業としての体力が残っているメーカーなら、付加価値創造への勢いを増すだろう。
未曾有の不況は来年、さらに進行することは間違いないだろう。しかし、どんな不況にも終わりはある。かつての世界恐慌においても、ずっとその不況が続いたわけではない。いつかは成長基調に戻る。いざ経済が回復した時、タイムリーによい製品やサービスを提供して利益を上げていくためには、不況の時にこそ次世代への研究開発投資を行わねばならない。好況になるのを待って投資をしても、その効果が現れるまでには時間がかかるからだ。
もう1つ、力のあるメーカーが、来年というタイミングで高付加価値製品を訴求しなければならない理由がある。テレビ市場は永遠に続くかと思われた大型化のトレンドが止まりつつあり、50インチ以上のテレビ市場は成長が著しく鈍ってきた。
テレビメーカーは今後、50インチ以上のテレビをさらに低価格化して普及促進を図るのか、市場拡大よりも1台のテレビにより大きな価値を付加することで単価を維持(あるは上昇)する戦略を強めるのかを選ぶ(あるいは両面作戦)ことになる。判断はメーカーそれぞれの事情(パネル工場などの稼働率を上げたいなら前者に行くしかないが、完成品での利益確保ならシェアを減らしても後者の方がよい面も多いだろう)に左右される。が、プレミアム志向のテレビも今後は増えていくだろう。
例えば東芝は来年、Cell搭載テレビの発売計画を持っているようだ。現在のテレビはインターネットにつながり、DLNAとDTCP-IPによってホームネットワーク内での共有コンテンツを再生する窓口にもなりつつある。
現在でも、こうしたネットワーク機能を売りにしている製品はあるが、大量のコンテンツから目的の情報を見つけ出すのは骨の折れる作業だ。Cellテレビでは、ユーザーインタフェースやコンシェルジェサービス(コンテンツ内を分析してユーザーに適切なコンテンツの候補を提示するなど)に、新しい概念を持ち込んでくるとみられている。
ほかにもパイオニアや東芝が取り組んできた、視聴環境とコンテンツに合わせて画質を微調整するといったインテリジェントな機能も、追随するメーカーが増え、機能の幅も広がっていくだろう。画質調整のような品位を高める方向だけでなく、例えば文字テロップを検出すると、静止画として過去何枚分かを自動記録しておき、メモを逃した時などにさかのぼって確認するなど、使い勝手を高めるような工夫もやり方次第ではできる。
実際にどうなるかはフタを開けてみなければ分からない。“テレビ産業の危機”であることは間違いないのだから。世の中の話題は低価格製品に移り変わっていくだろう。しかし、だからといってテレビの進化が止まるということは、今のところなさそうだ。
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