世界一のプラズマモニター、パイオニア「KRP-500M」で観るBD「アメリカン・ギャングスター」:山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」Vol.31(2/2 ページ)
昨年末、自室のテレビをパイオニア「PDP-5000EX」から同社の最新プラズマモニター「KRP-500M」に入れ替えた。さまざまな場所でこの50V型機の魅力に触れ、どうしても自分で使ってみたくなったからだ。
先日、大手メーカーから発売されているラックスピーカーを何モデルかテストしてみたが、その音のひどさにあぜんとした。BDソフトを聴いてみると、じゅうぶんなラウドネスが得られないし、音量を上げていくと、ゆがみっぽさが気になって聴いていて全然楽しくない。まず何よりデザインが最悪だし、音が下から聴こえる違和感も大きい。こんなものに8〜10万円も払うなら(そう、けっこうな値段なのだ)、それなりのアンプを内蔵した外部スピーカー端子付のテレビにペアで5〜6万円の優秀な小型スピーカーをつないだほうが、なんぼかマシだと思う。
しかしながら、どういうわけかパイオニア以外のテレビメーカーは、今では外部スピーカー端子付のテレビを発売していない。超薄化と狭ベゼル化が急激に進む昨今、内蔵スピーカーはまともなキャビネット容量が与えられることなく、その音質は劣化の一途をたどっている。ならば、それなりのパワーを持たせたアンプを内蔵し、スピーカー出力端子を設けて、音質が気になる方はきちんとした外部スピーカーとつないで下さいというメッセージを発すればいいのに……と思う。なぜメーカーはテレビに外部スピーカー端子を付けないのか、ほんとうに理解に苦しむ。テレビの音など誰も気にしていないとでも言うのだろうか。
横道にそれた。KRP-500Mに話を戻そう。
本機に採用されたプラズマモジュールは、9世代めとなる最後のパイオニア内製パネル。暗所コントラスト2万:1を実現した第8世代機、PDP-5010HDの黒には誰もが驚かされたが、本機KRP-500Mのパネルは、黒輝度をさらに5分の1に落したというのだからすごい。
パイオニアは第6世代機(2005年)以降、発光効率を上げる「高純度クリスタル層」を採用することでハイコントラスト・ディスプレイのトップに躍り出たわけだが、この第9世代機では、予備放電を絵がらに合わせて時系列的に分散させるという高度な手法を盛り込むことで、未曽有のコントラストを獲得した。
傍らに5010HDを置いて本機の映像を見たが、その黒表現の進化はやはり驚くべきもの。再度「プラズマテレビ、ここまできたか」と深い感慨を抱かせるコントラスト表現である。もちろん明所コントラストと色純度を向上させ、二重反射をカットする、お馴染みの「新ダイレクトカラーフィルター」も搭載されている。
5010HDで初採用された画質ポジション「リビングモード」もよりいっそう練り上げられている。これは照度環境とコンテンツの性格に合わせて、自動的に最適画質を提供するインテリジェントな映像モード。ソース・カテゴリーの見直しを進め、その精度は一段と高められているが、本機はオプションのカラーセンサーを加えることで、照明の色温度をモニターし、画質をそれに合わせ込めるようにした点が新しい。
ハイファイ映像再生を志向する熱心なAVファンにぜひ注目していただきたいのが、「ディレクターモード」である。これはマスターモニターの画質を目指したという、たいへん興味深い映像ポジション。放送局やテレシネのスタジオに置かれたマスターモニターの仕様に合わせ、デフォルトはガンマカーブ2.2乗、色温度6500ケルビン、色域をEBUに定め、すべての画質補正回路はオフの設定となる。これは本機の裸特性が優れているからこそやれるワザ。基本性能がよくないと見るに耐えないボロボロの画質になるリファレンス・ポジションに果敢に挑戦したパイオニア開発陣の勇気をたたえたいと思う。
「アメリカン・ギャングスター」。販売元はユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン/4935円。(c) 2008 Warnerbros. Entertainment Inc. All rithts reserved.
もちろんこの画質をベースに細かな調整が可能。ユーザーがディレクター気分できめ細かくイコライジングができるように、調整ステップを他のモードよりも倍に増やしている。また、リモコンの青ボタンを押すことで、調整前と後の映像を一発で比較できるような工夫もされている。
このリビングモードとディレクターモードで観て、非常に興味深かったのがBD「アメリカン・ギャングスター」である。
名匠リドリー・スコットが2007年に撮ったこの作品、舞台は1970年代のニューヨーク。デンゼル・ワシントン演じる麻薬ビジネスで頭角を現したギャングスターと、彼を執拗(しつよう)に追い続けるラッセル・クロウ演じる刑事を描いた実録ドラマである。
本編は黒浮きしたスモーキーな画調で、一見ハイビジョンのBDとは思えないさえない画質に思える。しかし、部屋を暗くしてディレクターモードで観ているうちに、これは実録ドラマという作品の性格に合わせて、わざとこういうぼやけた画調にしてドキュメンタリー・タッチの雰囲気を狙っていることが分かってくるのである。
いっぽう、リビングモードにすると、巧みに黒を引き込んで、BDらしい高画質を500Mを演出していく。高踏的なディレクターモードを用意しながら、こういう誰もが分かる高画質を導き出すリビングモードを作り込んだパイオニア技術陣の見識の高さに改めて感心した次第である。
今年の新製品からパイオニアのプラズマ機は、パナソニック製パネルが採用されることになるわけだが、ぜひこの懐の深い、高級テレビ路線を歩み続けてほしいと思う。
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