“あえて”再び対比してみる液晶とプラズマ(1):本田雅一のTV Style
このところ液晶テレビに対するプラズマテレビのシェアが下がり始めており、またぞろ“プラズマの危機”を語る者が多くなってきた。しかし、彼らの多くは誤った数字の読み方をしている。
このところ液晶テレビに対するプラズマテレビのシェアは下がり始めており、またぞろ“プラズマの危機”を語る者が多くなってきた。各国ごとに事情は違うが、直近に複数のテレビメーカーから聞いた、日本市場におけるプラズマテレビの比率(台数ベース)は、いずれも5%程度というものだ。
しかし、液晶とプラズマの得手・不得手、あるいは販売しているメーカーの数を考えると結論は早計に出すべきではないと思う。5%という数字が下がりつつあるからといって、“プラズマの価値が下がった”とは言えないからだ。“シェア低下=価値の低下”というステレオタイプな図式は、現実から乖離(かいり)した結論を出してしまう一番の原因だ。
ご存知のように、プラズマは大型パネルを得意とする技術で、フルHDパネルは42インチ以上にしかなく、最大では152インチのディスプレイが商品化されている。液晶でも100インチオーバーの試作モデルはあるが、コスト効率の面からいってプラズマと勝負できるものでもない。一方、中型以下でも高解像度化が容易で明るさを確保しやすいことが、液晶テレビの台数シェアを高めている。
例えばディスプレイサーチの数字によると、昨年ワールドワイドでは約1億7000万台のテレビが販売された。このうち50インチ以上は6%にしか過ぎない。日本市場ではこの数字は10%にまで上がるが、大同小異と言っていいだろう。37インチ以上に枠を広げると40%だが、プラズマが本領を発揮する46インチ以上(この区切りでの統計は手元にないが、テレビメーカーによると日本市場の場合で15%以下ではないかとのこと)の台数シェアが意外に少ないと感じる人も多いはずだ。
“テレビ市場における50インチ以上の台数シェア”というのは、“二輪車市場における排気量250ccを超える製品の台数シェア”というのと同じようなものだ。後者の場合、原付スクーターが圧倒的に多いことが容易に想像できるように、前者の場合でも中小型の液晶テレビが大多数であることは簡単に想像できる。
だからプラズマを得意とするメーカーでも、液晶テレビに取り組んでいるわけだ。今年はさらに、“地デジ停波1年前+エコポイント最後のチャンス”という事情も異なり、これまで薄型テレビに興味を示してこなかった購買層の買い替えが多い。
昨年も例年に比べ(日本のテレビ販売台数は年間900〜1000万台でほぼ一定で推移してきた)1.6倍ぐらいの売り上げ台数を示したが、今年はさらに伸びて例年の2倍の台数規模(あくまで売り上げ台数であって売り上げ金額ではない)になると言われている。が、ここで台数を押し上げている購買層で、46インチ以上のプラズマが得意なスクリーンサイズを選ぶ人はほとんどいない。
つまり、今年はプラズマの販売比率が下がりやすい環境にあり、“消費者はプラズマを見放した”とする論調は、そもそも議論とする数字の読み方が間違っていることを示している。このような話は、テレビ市場に詳しい方ならば当たり前のことだろうが、シェアの対比で市況リポートを出す側にしてみれば、批判的記事を書く格好の的になりやすいのだろう。
消費者が自分で購入する製品を選ぶ際には、上記のような数字遊びではなく、実質的な製品の良し悪し……絶対的な性能・機能や画質の違いというよりも、今後のテレビライフを共にするパートナーとして、自分のライフスタイルに合った製品を選ぶことが肝要だ。ということで、エコポイント商戦も年末に向けてどんどん加熱していく前の準備運動に、あえて再び液晶とプラズマの対比を行ってみたい(以下、次週)。
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