秋のオーディオ大豊作祭り(後編):麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/2 ページ)
「今年はオーディオ機器が大豊作」というAV評論家・麻倉怜士氏。後編では、手ごろで本格的なスピーカーや新しいオーディオの潮流を紹介してもらおう。
オーディオに新しい波
LINNのDSに代表される新しいオーディオのジャンルでも最近、2つほど感心した製品があります。1つは、米PS Audioの「PerfectWave Transport」(パーフェクトウェーブトランスポート)。PS Audioは、社名の通り、以前は電源機器を手がけていた会社ですが、2009年にトランスポートとDACを発売してオーディオ機器に参入しました。
米PS Audioの「PerfectWave Transport」(パーフェクトウェーブトランスポート)。本体サイズは435(幅)×355(奥行き)×99(高さ)ミリ、重量は11.5キログラム。標準小売価格は52万5000円
現在、こうしたデジタルオーディオ機器には3つのタイプがあります。1つはLINNのDSシリーズに代表されるNASに蓄積してネットワーク再生するタイプ。もう1つは、内蔵HDDに蓄積する米Oliveの「OLIVE」(オリーブ)のような機器。そして3つめがPerfectWave Transportです。楽曲をHDDなどに取り込まないのに、同じような良さを味わえるユニークな製品です。
通常のCD再生では、リアルタイムにアナログにしなければならず、ジッター訂正などが追いつかないこともあります。LINNのDSシリーズは最高の状態で楽曲を取り込める点が支持された理由の1つですが、一方で一度取り込むと円盤(CD)はいらなくなってしまいますし、再生時にはPCやiPadの画面で操作しなければなりません。人によっては煩雑に感じるでしょうし、パッケージメディアを所有する喜びにも欠けますよね。
しかしPerfectWave Transportは、CDを再生したとき、内蔵メモリーにキャッシュしながら再生します。少しタイムラグは発生しますが、その都度、最高の状態で再生が行えます。ネットワークや別途ストレージを用意する必要なく、低ジッター、高精度のクロックといった良い部分を活用できる。操作性は従来のパッケージメディアと同じですから、CDなどと相性の良いPCオーディオ機器といえるのではないでしょうか。
音質は素晴らしい。これまでCDプレーヤーで聴いていた人は、同じディスクにこれほどそれまで聴けなかった音情報が詰まっていることに驚くでしょう。パッケージメディアによる音楽鑑賞の新鮮な一手ですね。PerfectWave Transportは、国内では完実電気が取り扱っています。
もう1つのOLIVEについても補足しておきましょう。OLIVEは内蔵HDDに楽曲データを取り込むタイプですが、楽曲の検索や再生操作については前面のインジケーターで行えるため、PCを使う必要がありません。また、音が良いのも特長ですね。取り込みから再生にいたるまで、トータルに音作りをしていると感じました。日本ではノアが扱っていて、価格は500Gバイト版で17万円前後です。
K01(エソテリック)
最後にもう1つ、エソテリックのCDプレーヤー「K-01」も素晴らしかったです。わが家にはLINNの「CD12」がありますが、別の意味でそれ以上の音を出していました。
K-01は、微小な音まで“詰まっている”ような鳴り方をします。音の情報の引き出し方が極度に高いレベルにあり、「このCDってここまで音情報が入っていたの?」と驚きました。これまでのエソテリック製プレーヤーも情報量は多かったのですが、むしろ過多という感じでした。今回はそれに見事な音楽性が加わりましたね。LINNのDSなどは、取り込み時にジッターを排除して良い状態で音楽を再生するという、いわばIT的な仕掛けで音を良くしたわけですが、このCDはとてもアナログ的な良さを持っています。
K-01のような従来型のCDプレーヤーと、先述の取り込み系デジタルプレーヤーを比べると、私は「セッションレコーディング」と「ライブレコーディング」のような違いを感じます。セッションレコーディングというのは、スタジオで録音し直しながら完ぺきな音を作る作業です。一方のライブレコーディングは、ライブの現場で一発勝負の録音を行います。完ぺきな録音はできませんが、その場でしか得られない熱気というか、音の興奮感が入ります。
同じように、取り込み系デジタルプレーヤーはジッターが外れ、微小信号は出ますが、CDプレーヤーの音楽的な世界観とは違う感じですね。どちらも新しい提案がいろいろと出てきたので、今後も楽しみです。
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