4K×2Kがやってくる:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/2 ページ)
8K×4Kのスーパーハイビジョンが登場するのはまだ先の話で、4K×2K対応の映像機器が橋渡しをすると見る向きも多い。今回は4K×2Kをめぐる最新動向やハイパーソニック・エフェクト、最新の超解像技術についてAV評論家・麻倉怜士氏に聞いた。
不思議で自然な高画質、ICC技術
――4K×2Kのテレビがほしくなりますね。しかしコンテンツは出てくるのでしょうか
麻倉氏: 4K×2K解像度での制作はこれからでしょう。しかし、われわれには超解像という技術もあります。例えば東芝は2年ほど前から展示会で4K×2Kテレビを展示して、フルハイビジョン映像をアップコンバートして見せていましたが、最近、i3(アイキューブド)研究所がアップコンバート用の超解像技術「ICC」(Integrated Gongnitie Creation:統合脳内クリエーション)という技術を発表しています。
i3研究所は、ソニーでDRC(Digital Riality Creation)を開発した近藤哲二郎氏が数十人の仲間と設立した会社で、今回ICC技術をLSIに起こすことに成功しました。ICCでは、人間の“光の刺激”を頼りに物体を認識したり、記憶に残したりするという認知過程に着目し、テレビなどディスプレイを視聴した際にもそれを再現するといいます。人の感情を喚起するためのルックアップテーブル(データベース)を持ち、映像を置換するそうです。考え方としては初期のDRCに似ていますが、感情を喚起するようなデータベースと言われても、いまひとつ分かりませんね。
しかし、実際のデモンストレーションを見ると、腰を抜かすくらいの違いがあって驚きました。2K(フルハイビジョン)で撮影した桜の木や人物など多くの素材を4Kにアップコンバートした映像を見ましたが、「本当にアプコンでこれだけ画質が良くなることがあるのか」とにわかには信じられません。もともと200万画素の素材から800万画素の映像を作るのですから、比喩的に言えば画質は1/4でしょう。
実際、比較用に用意された業務用のアップコンバーターでは無残に解像度が落ちて、ディティールやコントラストは吹っ飛んでいました。しかし、ICCの映像を見ると違和感がありません。畳が映っている映像などは、2Kではボケッとしているのに対し、ICCをかけると細かい目地や質感が出るのです。目地にはごく細かいシャドウまでできていることが見えました。それでも不自然ではないのです。これまでの常識では考えられない処理です。4K時代の切り札と言えるかもしれませんね。
4Kカメラで撮影した映像より、2Kカメラで撮影してICCをかけたほうがきれいな場面もありました。不思議ですね。まさに映像の本質を見せるような技術です。極端な話、ICCがあれば2Kカメラで十分かもしれません。今ある資産を良い形で将来の4K、8K時代に残していける、とても価値の高い画像処理技術といえるでしょう。
今後、高画質のコンバージョン技術はますます重要になってきます。多様化する映像社会が形成される中、ICCのような技術は、さらに注目を集めていくと思います。
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