年に一度の総決算! 2011年「麻倉怜士のデジタルトップ10」(前編):麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/3 ページ)
今年最後の「デジタル閻魔帳」は、2011年に麻倉怜士氏の印象に残ったモノをランキング形式でお届けする毎年恒例の「麻倉怜士のデジタルトップ10」。ハードからソフトまでワイドレンジにカバーする麻倉氏がピックアップするデジタルトピックスは?
第10位:Blu-ray 3D「塔の上のラプンツェル」
麻倉氏:第10位は、先月とりあげたディズニーのBlu-ray 3D「塔の上のラプンツェル」です。薄型テレビの3D対応は進みましたが、なかなか盛り上がらない理由はコンテンツ不足です。しかし、今年はディズニーから「ボルト」や「トイ・ストーリー」が発売されるなど、ここまで力を入れるか? と思うほどゴージャスなラインアップになりました。
振り返ってみると、今回の3D映画のムーブメントが起きたきっかけは、「チキン・リトル」でした。昔の3D映画は、“飛び出す”ことを効果的に観客を驚かす手法として使用していましたが、チキン・リトルでは3D効果のほとんどを“奥行き”にして長時間見ていても問題なく、しかも作品製のあるものに仕上げました。前回触れたように、「ボルト」になると画面に登場する物体にも質感が加わり、犬や猫の存在感がとても上がりました。チキン・リトルからボルトまでの間で3Dの技術開発はすごく進歩したのです。
塔の上のラプンツェルでは、ボルトで開拓した技術がすべて持ち込まれ、圧倒的な存在感を持ちました。その3D設計を手がけたディズニーの3Dスーパーバイザー、ロバート・ニューマンさんは、作品中で珍しく“前に出てくる”チャプター8のランタンのシーンについて「子どもたちに手を伸ばしてほしい」と話していました。これは変化です。これまでの安全性重視の作り方から、感動やエンターテインメントを生み出す演出として3D効果が使われるようになったのです。新しい時代のソフト作りを象徴する作品といえるのではないでしょうか。奥行きも実に自然。まさに3Dコンテンツの金字塔です。
第9位:ヤマハ「調音パネル」
麻倉氏:ヤマハの調音パネルは、オーディオルームやホームシアターの音を整えるものです。音というとスピーカーがまず頭に浮かびますが、実は部屋の作りや材質に大きく左右されているため、われわれは「部屋の音を聴いている」といっても過言ではありません。例えば低音は吸収されにくく、大きなスピーカーでは膨れがちです。定在波の悪影響なども、これまでは対処しようとしてもお手上げの状態でした。反射の多い部屋などはもう、「座布団でもひきなさい」としかアドバイスできなかったのです。
しかし、ヤマハの調音パネルには驚かされました。幅60センチ、高さ90センチ、厚みは約3センチ(28ミリ)ほどの板状で、ところどころに開口部があります。中には長短2本の音響共鳴管が連結され、それをパネル状に連結することで開口部まわりに堅い反射面ができるという構造。入射する音に対して開口部から放射される音と、パネル面が反射する音によってほどよい散乱効果が得られると考えられます。ヤマハの音響研究はかなり進んでいて、調音パネルも全帯域に渡ってフラットな特性が出ているところがすごいです。吸音材といえばグラスウールですが、これは高域しか吸いません。低域は残ってしまいます。
10月のオトテンの際、イベントに使用する部屋の音響特性がいまひとつだったのですが、壁に調音パネルをならべたところ、すごく良くなりました。低音がブーミーで定在波もあったのに、ほとんどなくなったのです。しかも信号処理ではなく、アコースティックな手法だけで整えるところに価値を感じますね。お客さんの前で使用前、使用後を試しましたが、みなさんびっくりされていました。これは新時代のオーディオ道に必要なアイテムだと思います。部屋の悪影響でスピーカー本来の音が聞けないのは残念なこと。いいスピーカーやいいアンプを導入したときは、本パネルでアジャストすると見違えるように音質が向上(本来の音質が現出)します。
第8位:「PENTAX Q」
麻倉氏:第8位は、7月にデジタル閻魔帳の「おまけコーナー」でもとりあげた「PENTAX Q」です。ミラーレス構造や新開発「Qマウント」、そしてデザインでも注目を集めた“世界最小最軽量”のレンズ交換式デジタルカメラですね。
ミラーレスの世界はすごく広がっていますが、以前はミラーがなくなったのに大きなボディーの製品ばかりで新しい価値が見えにくかったのも事実です。しかしPENTAX Qは、小さくてかっこいいという、分かりやすい価値を示しました。いつでも使えるレンズ交換式で、持ちやすく、しかも高画質。コンパクトカメラにはない堅牢さと機能性を持ち、また手触りの良さにも驚きました。
交換レンズの面白さも評価のポイントです。例えば、「03 FISH-EYE」は35ミリ換算で約17ミリ相当のダイナミックな超広角撮影が可能です。さらに個性的な焦点距離の「ユニークシリーズ」や、画質を追求した「高性能シリーズ」のラインアップが充実してくると、さらに面白いですね。昔の「110」(ワンテン)をほうふつとさせる“技術魂にあふれたユニークマインド”のようなものが開花しています。
――後編では、第7位からカウントダウンしていきます(→後編はこちら)。
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