“大人の音”に生まれ変わったKEFの新「Qシリーズ」:潮晴男の「旬感オーディオ」(2/2 ページ)
オーディオ再生において、およそ70%の支配力を持つというスピーカー。だからこそスピーカー選びには妥協したくない。今回は英KEF(ケフ)の新製品「Qシリーズ」を紹介しよう。
ミッドレンジのドライバーに関しては、ラバー製のサラウンド(振動板周辺のエッジ部分)に壁を付けた「Gフレックス」と呼ぶ形状を与えることで、正確な動作とひずみの低減を可能にしたほか、この壁が高音域の拡散を手助けしている。
振動板はアルミニウムを強化したアルミアロイなので剛性は高いが、このままだとピークが出るため、コーンの付け根部分にラバーを加えて再生周波数の下端でのひずみの発生を抑える工夫もなされている。以前はそのピークの調整をネットワークで行っていたということだが、その必要性もなくなり、一段と素直な特性を得ることができたようだ。
エンクロージャーのサイズも前作と同じだが、外装の仕上げが厚手の付き板に変更されていることも音質のアップに寄与している。前作からエンクロージャーの形状がスクエア形に変わっているが、これは容積をアップしユニットの能力をより引き出したいという彼らの方針だ。
ゆったり過ぎるくらい悠々と奏でるベートーヴェン
ベートーヴェン:交響曲全集/ティーレマン & ウィーン・フィル。「BEETHOVEN9」と題したティーレマン&ウィーン・フィルによるベートーヴェン・チクルスは、キングインターナショナルから販売中。価格は3枚組で2万3625円。ティーレマンと高名な批評家ヨアヒム・カイザーによる長時間の対談など500分を超えるボーナス映像が収録されている(品番:KKC-9015)
QVupシリーズは、どのモデルも前作に比べると鳴りっぷりが良くなっている。とりわけ「Q-900Vup」にはそうした進化がはっきりと見て取れる。視聴には、クリスチャン・ティーレマンがウィーン・フィルを指揮したベートーヴェン・チクルスから、ぼくの好きな第6番「田園」を使ってみたが、なんともゆったり過ぎるくらい悠々と鳴るのだ。
このタイトルはBDもCDもリリースされているので、どちらも視聴した。BDはdts-HD MAの5.0チャンネル音声と96kHz/24bitのリニアPCMの2チャンネルの音声が収録されている。当然CDとの比較においては圧倒的にBDの方が音が良い。フォーマットが違うんだから当然といえば当然だが、その違いもこのスピーカーは克明に描き出す。もっともCDの音が悪いというのではなく、BDの方がより臨場感というか、演奏会場であるウィーン・フィルの本拠地、ムジーク・フェラインのホールの響きを良く描き出すのである。
しかし今回は、BDが良いね、とばかりもいえなかった。どうしてかというと、映像があるとクリスチャン・ティーレマンが少しばかりうっとうしいのだ。彼のファンには申し訳ないが、サイのような巨体が目の前で動くとちょっと厳しいなぁ。その点、CDは安心して聴ける。ウィーン・フィルの演奏は素晴らしいし、音も良い。加えてBDはカメラワークもあまりいただけません。というわけで、BDの音だけ聴くという方法論もなくはない。演奏会場に行って、感極まり目を覆って音楽を聴くこともあるわけだから、それはそれで良いのではないかと思う。
Q-900Vupは、音の深い部分まで再現できるようになった。ウィーン・フィルの弦楽器の音色も豊かに描き出すが、その豊かさはこの価格帯において抜きんでていると思う。それは音楽のファンダメンタルな部分を丁寧に捉えることができるようになったことと相通じるし、このモデルのもっとも進化した部分だ。前作があればこその新作……、Vupシリーズほどそう思わせる製品はないと思った。
潮 晴男(うしお はるお)氏プロフィール
オーディオ・ビジュアル評論家・音響監督。オーディオ・ビジュアル専門誌をはじめ情報誌、音楽誌など幅広い執筆活動を行う一方、音響監督として劇場公開映画やCDソフトの制作・演出にも携わる。ハリウッドの映画関係者との親交も深く制作現場の情報にも詳しい。またイベントでのていねいで分かりやすいトークとユーザーとのコミュニケーションを大切にする姿勢が多くのファンの支持を得ている。
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