小さいのに大きな存在感! フォステクス「GX100Limited」で聴く“天才少女”の歌声:潮晴男の「旬感オーディオ」(2/2 ページ)
スモール・バット・マイティ……山椒は小粒でピリリと辛い。今回はそんな取り合わせだ。成りは小さいけれど開発者のこだわりの詰まったスピーカーを使い、天才少女、ジャッキー・エバンコのライブを聴いた。
エンクロージャーは、MAと同じく楠とユーカリの合板を用いて響きと剛性のバランスを考えた作りがなされているが、背面には大型のポストを配し、ハイグレードなケーブルが結線しやすいように仕上げてある。加えてこのモデルはピアノブラックによる手塗りの工程を経ることで美しい外装を得ていることも、地味だが凄い部分である。
小型で高性能なスピーカーは、専用のスタンド、もしくは正しい音響理論で作られた汎用のスタンドに載せて再生するととてつもなく広くて深い音場を再現する。GX100Limitedもその例外ではない。
しかしながら、一般的にはコンパクトなブックシェルフ型であるがゆえに、設置場所には困らないものの、設置方法には無頓着な場合が多い。しかしこれではせっかくのスピーカーの能力が引き出せない。本棚に格納する時は周りとのバランスを考えたいし、スタンドに載せるならできれば周りの空間は広く取りたい。こうすることでサイズを感じさせないスケールの大きさを味わうことができる。
そのためこのモデルには専用のベースボードが付属している。ブックシェルフ型として本棚にセットしたりデスクトップで使うユーザーにこのスピーカーの音をしっかり味わってほしいと願うフォステクスの思いやりだ。
ジャッキー・エバンコのCDとBDのライブアルバム「ドリーム・ウィズ・ミー」で試聴してみた。2011年8月、米国フロリダ州のサラソータにあるジョン&マーベル・リングリング博物館の野外ステージでのコンサートを収録した作品で、タイトルの「ドリーム・ウィズ・ミー」は彼女の初のフルアルバムとなるCDからそのまま付けられたものである。
ジャケット写真を見ることなく、CDを聴くと、とても当時12歳の少女が歌っているとは思えない、その大人びた声に驚くと思う。そして「GX100Limited」は、そのニュアンスをおしみなく描き出す。いくぶんきらびやかだが嫌みな感じは一切ない。切れのあるサウンドながらしつこくなくスムースな表現力もこのモデルの美点だ。小粒だがさわやかに晴れ渡る感じがとても良い。
もっとも使用条件によっていくぶんブリリアントに感じるようなら、背面のスピーカー・ポストの上にあるコントローラーを微調整して最適ポイントを見つけてほしい。このコントローラーはツィーターのレベルを増減するものではなく、クロスオーバー周波数の肩特性を変化させるものなので、量的な変化がないことも特長だ。
BDはジャッキーのイメージカットから始まり、ディズニー映画「ピノキオ」の主題歌「星に願いを」を歌うステージへとオーバーレイする。叔父のマシュー・エバンコが作曲した「トゥ・ビリーブ」では、バックに同年代あるいはそれ以上の年齢のコーラス隊が加わるが、このスピーカーはジャッキーとバックの声質の違いもはっきりと描きわけるし、オープンエアの空気感も丁寧に再現する。
このスピーカーを聴いて、GX-100の進化にも感心させられたが、それにしても彼女はこの先どんな成長ぶりを見せてくれるのだろうか……。将来に渡って楽しみの多い逸材の登場である。
関連記事
- “大人の音”に生まれ変わったKEFの新「Qシリーズ」
オーディオ再生において、およそ70%の支配力を持つというスピーカー。だからこそスピーカー選びには妥協したくない。今回は英KEF(ケフ)の新製品「Qシリーズ」を紹介しよう。 - 力の入った低価格AVアンプ! ソニー「STR-DN1040」で“楽器を持たないポール・マッカートニー”を聴いてみよう
AV評論家・音響監督として活躍する潮晴男氏による新連載がスタート。旬なオーディオ機器にお気に入りのソフトを絡めて紹介していただきます。記念すべき第1弾はソニーの低価格AVアンプ「STR-DN1040」がテーマ。 - HR形状が進化、フォステクスから純マグネシウム振動板採用スピーカーの新製品「GX100 Limited」
フォステクスは、ブックシェルフ型スピーカーの新製品「GX100 Limited」を5月末に発売する。数量限定ではなく、既存モデル「GX100MA」のスペシャルバージョンという位置付け。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.