3D映像の再評価、「ルミエール・ジャパン・アワード2013」で見つけた新しいリアリティー(前編):麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/2 ページ)
ブームが去ったと言われる3Dテレビだが、AV評論家の麻倉怜士氏によると、3Dは映像のリアリティーを増す表現手法の1つとして磨かれ続けているという。国際3D協会日本部主催のアワードで分かった立体映像の真価とは?
「東日本大震災 津波の傷跡2011ー2013」
麻倉氏: NHKメディアテクノロジー制作の「東日本大震災 津波の傷跡 2011ー2013」も「ドキュメント/ライブ部門」の作品賞を受賞しました。これは、さまざまな意味のある津波の記録です。
NHKメディアテクノロジーは、震災直後から1カ月後、半年後、1年後と3Dによる震災記録映像「東日本大震災 津波の傷跡」を継続的に制作してきました。担当プロデューサーは、「被災地が復興するまでは使命として撮り続ける」と話していて、3年目の春に撮影されたのが今回の作品です。
本作をみて、私は第1作との共通点と相違点に気付きました。私の第1作のインプレッションはこうでした。「2Dでは分からないことが分かる典型が、物(被写体)が3Dならば明確に判別できることだ。土砂と海水に浸かった一帯は、すべて土色で覆われ、それが瓦礫(がれき)なのか、瓦礫でも原型は木なのか、冷蔵庫や洗濯機などの物体なのか、分かりにくい。一様に同じような色なので、色や質感を手掛かりに識別するのは、かなり難しい。ところが3Dでは、ひとつひとつのオブジェクトに立体感が付与されているので、瓦礫と一言で片付けられるものたちでも、実は非常に豊かな、ものとしての個性があり、それは津波の瞬間まで生活の道具として使われていたのだという、イマジネーションを湧かすことが容易なのである」(月刊「ビデオサロン」の原稿より)。
つまり、一面が同じ色であっても、奥行き感や質感が感じられるのは、まさに3Dならではの表現力だと書ました。このことは、今回の作品もまった同じでした。確かに一部では復興が進み、前面土色という状況ではなくなっているところもありますが、それでもまだまだ進まない場所も多い。そこで今回も3D撮影の豊かな表現力が、映像に圧倒的な実体感を与えていたのです。
今回、新しく感じたのが色と人。第1作は、ほとんどが破壊された土色の索漠たる光景でした、3年目の本作は新しい色が入りました。桜です。
前回も今回も4月に撮影をしたのですが、春なのにまったく桜の花はありませんでした。根こそぎ持ち去れた寂寥感(せきりょうかん)が画面を覆っていましたが、今回は、桜がとてもきれいなシーンがあります。手前にはんなりとした薄いピンク色の桜を配し、奥に津波で被害を受けた景色を置くという3Dの表現力を生かした構図。厳しい場面が続く中で桜が出てくると正直、ほっとしますね。それは復興の象徴であり、歳月を物語っているからです。
人が画面に積極的に出てきたのも、第3作の特長です。第1作はほとんどが破壊尽くされた景色のみでしたから、同じように月日を感じさせます。破壊された鉄道路線の一部がバス高速輸送システムとして復旧し、新しい形の住民の足になろうとしているのはとても良いことだと思いました。中学生が、楽しそうにバスに乗る光景は、若者がこれからの復興の主役だという思いを深くさせました。
今回、もっとも印象的だったのが、日本有数の漁業基地、気仙沼で海から700メートルも流され、あの日の姿のまま屹立(きつりつ)している巻き網運搬船「第18共徳丸」のむきだしになった赤いスクリュー。なんと、映像はスクリューのまわりをゆったりと、円形を描き上下左右になめていくのです。クレーンでもこんなダイナミックな映像は撮影できないと思ったら、リモコン操縦の超低空ヘリコブター撮影でした。
スクリューに回り込む撮影は、ヘリでないと不可能です。ここまで対象物に接近すると、3Dの立体感再現の価値がより高まります。高い位置からの、立体的な被写体配置も可能になったのです。手前に破壊された3階建てのビルが映り、背景の被害範囲の広大さを見せています。ヘリの軌跡そのものがストーリーを描く手法は実に斬新ですね。スクリューの件もそうですが、ヘリコブターと3D撮影は互いの強みをさらに強化しています。3D映像表現への新しいチャレンジといえるでしょう。
画質も良くなりました。第1作ではともかく記録することだけで精いっぱい。車で移動し、ここぞという場所で降りて、すぐに撮り、また移動するという繰り返しでした。その環境にあった露出や精確なフォーカス設定はなかなか難しかったと思います。今回は、露出やS/Nなど総合的な調整をじっくりとする時間があり、相当良くなっていますね。
そして、4月では66年ぶりという雪が降り、桜の花に雪が積もったシーンがありました。その様子は、“ここまで復興は進んだ。でも、まだ道のりは長い”という意味に感じられ、とても印象的でした。
――後編では、麻倉氏が採点表に90点以上(100点満点)をつけた2作品を取り上げます。
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