オーディオに愛情を注ぐ作り手の顔が見えるスピーカー、クリプトン「KX-1」:潮晴男の「旬感オーディオ」(2/2 ページ)
メイド・イン・ジャパンにこだわるメーカーは数あれど、クリプトンほど一途にその姿勢を貫いてきた造り手はない。「KX-1」は、そのクリプトンが、作ったリーズナブルなスピーカーだ。
試聴はオプションで発売されているスピーカースタンド「SD-1」に「KX-1」を載せて行った。60歳違いのデュエットとして話題となったトニー・ベネットとレディ・ガ・ガのCDアルバム「チーク・トゥ・チーク」からナット・キング・コールが歌ったことでも知られる3曲目の「ネイチャー・ボーイ」を聴いてみる。1940年代のジャズの名曲を中心に収録されたこのアルバムはゴージャスな音で構成されているが、ボーカルの録りにもこだわったことが特徴だ。
御歳88歳とは思えないトニー・ベネットの歌いっぷりにも驚かされるが、溌溂(はつらつ)とした中にも色っぽさのあるガ・ガの声をこのスピーカーはしっかりと描き出す。リングツィーターが高域に向かっての伸びやかさをサポートしているため解放感のあるワイドレンジなサウンドを再現する。2Wayだがボーカルのフォーカス感に優れていることもこのモデルの美点だ。だから寄り添う2人の声がスピーカーとスピーカーの間に浮かぶ。
「KX-1」は密閉型なので低域の制動に係るノウハウが深みのある音を造るとは、渡邊さんの言葉だが、そのために吸音材に天然のウール素材を適切に使って音の骨格を捉えている。低音域が貧弱だとベースラインだけでなくボーカルも薄味になるからだ。声の表情が豊かなのはウーファーとツィーターのつながりの良さに加え、こうした細やかなカット・アンド・トライによりウーファーがスムーズに動作していることの証明でもあるわけだ。またウーファーの分解能が優れているため、ローレベルの音にも反応するしスケール感も失わない。ハイレゾ音源でも試聴してみたが、目の前が開けるさわやかなサウンドを味わうことが出来た。
リーズナブルなプライス設定ながらメイド・イン・ジャパンへのこだわりが、こうした音を導き出しているのだろう。もちろん上位機には上位機のならではのサウンドがあるが、「KX-1」はオーディオファンの心を擽る何かを持っている。まさにオーディオに愛情を注ぐ作り手の顔が見える製品といってもいいだろう。能率はこのクラスの平均的なレベルなので特別大出力のアンプは必要ないが、このスピーカーの本来の能力を引き出すなら上質のプリメインアンプと組み合わせたい。
ところでデビュー作の型番が「KX-3」で、なぜ今頃「KX-1」なのか、改めて渡邊さんに聞いてみた。その理由はかって大手のオーディオ・メーカーに所属していた時に手がけた大ヒット作のモデル名が3番だったことに肖ったらしい。そういえばスターウォーズも「エピソード窊」から始まるのに誰も疑問を抱かなかったような気がする。ジョージ・ルーカスは当時こんな壮大なスケールになるとは思っていなかったそうで、自身が描くストーリーの中核を最初に映画化したのだとか……。ならば渡邊さんも「KX-3」からスタートしたスピーカー造りがこんなロングランになるとは思っていなかったのかなぁ。新製品が出たばかりで次の話をするのは少々気が引けるが、「KX-2」はどんな仕様になるのか、いろいろと思いを巡らせて待つのもオーディオファンの楽しみである。
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