ハイレゾを最も手軽に楽しめる一体型ヘッドフォン(後編)――“フルデジタル伝送”のUSBヘッドフォン「AHT-DN1000USB」を聴く(2/2 ページ)
今回紹介するもう1つのヘッドフォンは、オーディオテクニカの「ATH-DN1000USB」だ。世界で初めて商品化を実現した、音源からボイスコイルまでのフルデジタル伝送に対応する“フルデジタル”ヘッドフォンだ。
「ATH-DN1000USB」の音質レビュー
本体には53ミリ口径のダイナミック型ドライバーを搭載。再生周波数帯域は5Hzから40kHzまで。ハウジングには不要な振動を抑える効果と、未来的なルックスを与えるアルミニウムが採用されている。DACは最大192kHz/24bitまでのPCM信号に対応しているが、Dnoteの仕様によりDSDは非対応になる。
「フリーアジャストヘッドサポート機構」により、ヘッドバンドの調整が要らず、頭に装着するだけでベストポジションでフィットしてくれる。見た目には少し大きめな本体だが、フィット感がとても良いのでヘッドフォンを着けている感覚を忘れてしまうほど装着感は心地よい。
フルデジタルのパリッとした空気感を持ちながら、柔らかな一体感を持ったサウンドが本機の持ち味だ。低域はしっかりとした量感を備えながら、アタックの打ち込みが鋭く透明感が高い。オーケストラの演奏は弦バスやティパニなど低域の音色が立体的で彫りが深く、演奏にリアリティと緊張感をもたらしてくれる。音場は極めてワイドレンジで、中高域の残響が静寂な空気の中にすうっと溶け込んでいくような階調のきめ細かさも本機ならでは。ロックやジャズ、ダンス系の音源を聴いても力強く濃厚でどっしりとしたサウンドの聴き応えがある。その使いやすさと独特なサウンドの両面から、ATH-DN1000USBには本機でしか味わえない魅力があるといえる。
フィリップスは「iPhoneにつないでハイレゾが聴ける」ヘッドフォンを発表
今回はDACとアンプを本体に内蔵する2つのヘッドフォンを紹介した。いずれもポータブル環境で、またはPCとの組み合わせで手軽にハイレゾが楽しめる注目すべき製品カテゴリーであることがお分かりいただけただろうか。
まだ先進的なカテゴリーの製品なので、各モデルともにこれから発展していく余地も残されている。例えばMDR-1ADACでは場合、スマートフォンにUSB接続して音楽を聴いている時に着信すると音楽がミュートになり相手の声がヘッドフォンから聞こえるようになるが、マイクがないので通話ができない。ハイレゾ対応スマホで使う際の利便性により磨きをかけながら、1つの製品カテゴリーとして大きく成長してくことを期待したい。
最後にDAC&アンプ内蔵型ヘッドフォンの今後の展開に関連して、気になる製品を1つ紹介しておこう。フィリップスが9月に発表したヘッドフォン「Fidelio M2L」だ。本体にハイレゾ対応のDACとアンプを内蔵しているだけでなく、iOS 8を搭載するiPhoneやiPadなどのiOS機器とLightning-USBケーブルで直接つないでハイレゾ再生ができる“初のヘッドフォン”として、12月に欧州と北米、アジア太平洋地域での発売が予定されている。
その特徴についてはフィリップスのオーディオ製品を取り扱うWOOX Innovationsの製品紹介ページで明らかにされている通りだが、どのような技術を使ってiOS機器とのハイレゾを含むデジタル接続に対応しているのか、あるいは現在はまだハイレゾにネイティブ対応していないiTunesやiOS機器のプラットフォームとの連携方法などについての詳細は伝えられていない。
アップルは今年の5月29日にBeats MusicとBeats Electronicsを買収し、音楽まわりのサービスを強化していく方針を発表している。ハイレゾについても同社が今後どの程度本腰を入れて取り組んでくるのかまだ分からないが、フィリップスの「Fidelio M2L」が何かしらのカギを握る製品であることは間違いなさそうだ。
本稿を執筆している11月末にWOOX Innovationsの広報担当者へメールインタビューを試みたところ「Fidelio M2Lは現在、プレスリリース時に発表した地域で予定通り12月に発売する方向で着々と準備が進んでいる」という回答を得た。来年初に米国ラスベガスで開催される「2015 International CES」に出展するフィリップスのブースにも実機を展示する計画があるという。音質やハンドリングなど、詳細は現地会場から改めて報告したいと思う。
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