数字が示す激動のアジア・モバイル端末市場、今後のトレンドは“中間層”?――IFA GPCリポート(2):本田雅一のTV Style:(2/2 ページ)
過去10年間で急激に変化したアジアのモバイル端末市場。スマートフォン躍進の影に隠れ、存在感の薄れていたノートPCは……。Gfk Asia Pacificのアナリストが紹介した興味深いデータを分析してみよう。
全体の台数は2010年から2014年までの間に、6300万台から6億5700万台まで激増した。しかし2010年にモバイルのインターネットデバイスといえば、14〜15インチ程度の普及型ノートPCが主流だった。11インチ程度のネットブックや4インチのスマートフォンもあったが少数派でしかない。15インチノートPCの比率は実に45%である。
ところが2014年になると、4〜5.5インチまでの画面サイズを持つ端末だけで73%を占めるようになる。ノートPCは、12〜16インチまでの間に分布するが、16インチの3%、15インチの2%という数字がある程度で、他は1%台のシェアしかない。全体の数字が伸びているため、別の市場トレンド情報にもあるようにノートPC市場の縮小は止まりつつある。しかし”存在感”という意味では、もはや4年前の1/20程度しかないともいえるだろう。
”中間層”がひしめくアジア市場を狙え
ではスマートフォン市場が”美味しいか”といえば、昨今の(アップルを除く)スマートフォンメーカーの苦境が示すように、むしろスマートフォンの方が厳しい市場になっている。ノートPCよりも参入障壁は低く、有名/無名のさまざまなブランドがひしめいているからだ。
2010年、16しかなかったスマートフォンのメーカーは2014年に90まで増えた。タブレットは2社から77社、液晶テレビも37社から52社に増加した。対するノートPCメーカーは18社で変わらない。
その結果起きているのが価格下落であり、販売が伸びているはずなのに売上げが伸びない理由である。
例えばスマートフォンは同じ期間、359ドルから265ドルへ価格が下落。出荷台数が年率23%で伸びてきたものの総出荷額の伸びは鈍い。通信サービス契約とセットにした販売が行われることの多いスマートフォンでさえ……ということは、そうした縛りの影響がないタブレットではもっと価格が下がる。611ドルだったタブレットは358ドルに。売上げ台数の伸びを大きく上回って金額ではマイナス成長だ。
テレビは701ドルから571ドルに平均単価が下がっているにもかかわらず、出荷台数は9%しか台数は伸びていない。液晶テレビの需要がグローバルで一巡し、2台目、3台目の需要へとテレビ市場の中心が移っているからだ。400ドル未満の低価格テレビは市場全体の51%を占める。出荷台数は年率9%で増えているものの、実際には冷え込んでいるといえよう。
一方で同じ期間、アジア市場で比較的安定したのがノートPC。価格は730ドルから709ドルと下落幅が小さく、台数ベースの成長率は18%と価格トレンドからすると、比較的健全ともいえる。
さて、そんなアジア市場でTan氏が注目するのが、いわゆるアジア地区における”中間層”だ。2020年までには、グローバルの中間層人口の54%がアジア地区に集中する。主には中国とインドの経済成長が大きいからだ。この比率の増大は止まらず、2030年には66%に達する。この間、先進国は中間層が減少し、欧州は22%から14%まで減るとの予測だ。同様に北米も10%から7%へと減少する。
中間層の増加をTan氏は、ノートPC市場への回帰として結びつける案をしめした。なぜなら平均所得が高い成熟したアジアマーケット(日本を除く。韓国、香港、台湾、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド)では、スマートフォンの売上げ金額が落ち込む一方でノートPCが伸びているからだ。対してアジア新興市場(マレーシア、タイ、ベトナム、フィリピン、インド)は1〜2年遅れで同じトレンドを追従しているように見える。
中間層の増加……アジア新興国の中間層が増えることで購買力が増し、ノートPCがスマートフォンやタブレットから顧客を奪い返すというシナリオは、日本では考えにくかったとしても、アジア市場では可能性が残っているかもしれない。果たしてノートPCは、ここで踏ん張ることができるのだろうか?
次回は近年膨らんできているオーディオ機器市場に関して話をすることにしよう。多数のオーディオブランドを買収し、楽器から音楽制作、再生機器に至るまでエンド・ツー・エンドでソリューションを提供するギブソン・グループからGPCにゲストスピーカーが招かれ、彼らのユニークな戦略、考え方に関する説明があった。
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