日本テレコム固定網売却で、何が変わるか日本テレコムホールディングスは8月21日、固定通信事業子会社である日本テレコムを、リップルウッド・ホールディングスに売却することで合意したと発表した。売却額は、2613億円。
日本テレコムホールディングスは8月21日、固定通信事業子会社である日本テレコムを、リップルウッド・ホールディングスに売却することで合意したと発表した。売却額は、2613億円。 売却は前々から取りざたされていたが(記事参照)、今回ようやく合意に至った。これによりどういった影響があるか、記者会見での各代表者のコメントから確認していこう。
記者会見で、笑顔で握手する両社代表。左から、日本テレコムホールディングス社長のウィリアム・モロー氏、リップルウッド・ホールディングスのマネージングダイレクターのジェフリー・ヘンドレン氏
売却にあたり注意したいのが、これによって日本テレコムの経営陣が変わるわけではない、ということだ。むしろ、リップルウッドは現在の経営陣に満足しており、今後も人材が社内に留まるようにしたいという。社長のポストこそ、新社長として最適な人間を探している最中だが、当面は現社長のウィリアム・モロー氏が続投する。 ただし、リップルウッドは買収にあたり、その企業価値を向上させるため、経営経験の豊富な人材を経営戦略に関わらせる手法をとる。これによって斬新な事業展開を図る狙いで、同社はこれを「インダストリアル・パートナーシップ手法」と呼ぶ。 この考えに沿って、「インダストリアル・パートナー」として送りこまれるのが、会見にも姿を見せたロバート・アクリーナ氏と、メール・ギルモア氏だ。両氏はいずれも通信分野でのキャリアをもっており、今後日本テレコムの経営戦略上の発言力を持つと見られる。
ロバート・アクリーナ氏。AT&Tで21年間、法人/個人向け通信事業に関わった経歴を持つ。日本テレコムを評して「資産ベースでも、技術面でも優れた企業。社風もいい」
メール・ギルモア氏。米Motorolaで30年間、さまざまな職務を歴任した。1998年から2000年にかけては、通信設備事業の最高責任者だった それでは、彼らは今後どういったサービス展開を考えているのか? ロバート・アクリーナ氏は、そのサービス内容を「個人、法人を対象とした、音声、データ通信を合わせた“フルサービス”」と説明する。 音声部門の収益減は事実だが、業績が上がり有望視されていた「法人向けデータ通信サービス」に、特に積極的に投資する――とも、言及した。もっとも、これは日本テレコムの従来路線を踏襲するということ。特別目をひくような方針転換ではない。 アクリーナ氏はまた、“具体的に何が変化するのか?”と問う報道陣に対して「これまで日本テレコムが指向してきた路線で、業績も上がっている。この方向で、“変化”ではなく“強化”を行う」と明言した。ユーザーにしてみれば、今後大きな変化があるわけではないようだ。
今回の合意で、金銭的な動きをいうなら、日本テレコムは現金にして2288億円を手にし、さらに償還型の優先株式325億円を受け取ることになる。 この現金は、日本テレコムホールディングスの連結負債の削減に充てられるとのこと。同社は現在、有利子負債の圧縮に務めている。 一方リップルウッド・ホールディングスは、買収に伴いみずほコーポレート銀行、東京三菱銀行、三井住友銀行など11行からなるローン引受シンジケート団から、約2000億円の借り入れを行っている。今後は、日本テレコムの企業価値を高めた上で、投資の回収――具体的には、企業の転売などにつなげるわけだ。 もっともリップルウッドは、特にいつまでに投資を回収する……といった期限を切っているわけではないようだ。同社のマネージングダイレクター、ジェフリー・ヘンドレン氏は、日本テレコムに長期的に関わっていく考えを強調する。 今後は、通信事業者として勢力を拡大するため、ほかの手ごろな規模の企業を追加買収することも考えられる。現に、リップルウッドは市場に存在する競争相手を片端から評価している段階とのこと。ただし、具体的にどこを買収するといった計画は、今のところないとのことだった。
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