欧州でもプッシュ・ツー・トークがブームの兆し:3GSM World Congress 2004
携帯のトランシーバ機能「プッシュ・ツー・トーク」にNokiaが乗り出したのに続き、Siemens、Sony Ericssonなども追随。各社が対応端末を発表している。その狙いと、普及への課題は?
今年の「3GSM World Congress 2004」の展示会場は、3G本格化の期待から展示面積は2万7000平方メートルと前年比18%増、過去最大となった。その中で3Gほどではないが、現実的な関心を集めていたのがプッシュ・ツー・トークだ。
米国での米Nextelの成功が有名だが(2003年5月の記事参照)、欧州でも昨年Nokiaが乗り出したことから(2月13日の記事参照)、欧州系端末メーカーがこの動きに従っている。会場で、各社のプッシュ・ツー・トーク端末を探してみた。
現在、欧州市場で唯一、プッシュ・ツー・トークサービスを開始すると明言しているのは英仏で強いシェアを持つオペレーター、仏Orange。同社のブースでは、米PalmOneのHandspringスマートフォン、「Treo 600」を展示していた(2003年6月の記事参照)。
プッシュ・ツー・トークでは、IMのように話す相手をグループ化でき、相手の状態を見ることができる。操作は、同社のプッシュ・ツー・トークのサービス名称“Talk Now”をメニュー画面から選び、通話状態にある相手を選択して、通話ボタンを押すだけ。プッシュ・ツー・トークはIPを利用したウォーキー・トーキーのようなもので、通話は一方通行となる。通話ボタンを離すと、今度は相手が通話ボタンを押して話す。Orangeでは、ビジネスユーザーを想定して「Treo 600」を最初のサービス端末に選んでいるが、現在NokiaやSony Ericssonなどの端末をテスト中という。同社の“Talk Now”は英国で3月、仏で5月に開始予定だ。
すでに米国でCDMA向けに3機種のプッシュ・ツー・トーク製品を提供している米Motorolaは「Motorola v400」を展示していた。どちらかというとハイエンドよりの折りたたみ式で、「米国市場の経験をいかした作り」(Motorolaの担当者)と自信だ。側面のボタンを押すだけで表示される“バディーリスト”のほか、通話がスピーカーから聞こえないようにするボタンも用意した。将来的には、プッシュ・ツー・トークから電話にスムーズに移行できるような工夫を考えているという。v400は今年第2四半期発売予定で、今年中にあと2機種投入する。スマートフォンでのサポートも計画している。
Nokiaはカラフルな「Nokia 5140」に実装。防水加工、振動に強い“アクティブカテゴリ”に入る製品だ。側面にあるボタンを押すだけで、最大20人と同時通話ができる。同端末では工事現場などのフィールドワーカー、若者をターゲットユーザーとしている。各社の中でもプッシュ・ツー・トークを最も強く推進している同社は、来年以降全製品でサポートするという。5140の発売予定は今年第2四半期。
Siemensは、会期中に発表した新製品「Siemens CX1」に装備する。同端末はビデオ録画可能なカメラなどエンターテイメント機能を充実させたローエンド向けの端末で、今年第2四半期に発売する。Simensはターゲットを若者と明確に絞っており、出会い系アプリケーション“Picture Chat”をデモしていた。匿名で参加できる不特定多数のグループ内で、MMSで写真をやりとりした後プッシュ・ツー・トークに移行、音声でのコミュニケーションを楽しむことができる。同社Mobile部門社長のルディ・ランプレヒト氏は、差別化として「完全に標準に準拠する」とコミットを示している。
英Sony Ericssonは、昨年10月に発表したSymbianベースのスマートフォン、「P900」でデモ(2月13日の記事参照)。同社は会期中、米Sonim Technologiesと提携し、Sonimのソフトウェアを利用してプッシュ・ツー・トーク機能を提供すると発表している。詳細な戦略は、3月のCeBITで明らかにする。
このほか、会場には展示がなかったが韓Samsungも欧州で今年第3四半期に発表する予定だ。同社は米国ですでにプッシュ・ツー・トーク端末を提供しており、欧州市場では、スマートフォンと折りたたみ式ローエンド端末の2つのラインナップを想定しているという。Symbian OSを搭載した「x700」を発表したばかりのPanasnicは(2月25日の記事参照)、x700では漏れたが、時期製品ではサポート候補に挙がっているという。
欧州、プッシュ・ツー・トークの課題
このように、今年欧州市場でも各社がプッシュ・ツー・トークを推進していくようだが、課題はいくつかある。まずSMSとの差別化だ。米国とは異なり、欧州ではすでにテキストをやりとりするSMSが広く普及しており、SMSの音声版ともいえるプッシュ・ツー・トークが入り込む余地はあるのかという声が出ている。
各メーカーのプッシュ・ツー・トーク端末のタイプの違いから分かるように、各社が想定しているターゲット層は異なるようだ。共通して聞かれたのは、工事現場などフィールドワーカー。全端末で実装する予定のNokia以外は、若年層をターゲット層と見るかで見解が分かれている。すでに米国で経験のあるMotorolaの担当者は、欧州では、SMSが普及している若者層よりオフィスワーカーや家庭にニーズがあるだろうと述べていた。
次に、相互運用性だ。現行のままだと、例えばSiemensユーザーはNokiaユーザーとはプッシュ・ツー・トークができても、Motorolaユーザーとはできないといったことが想定される。また、SamsungがNokiaのソリューションを採用すると発表したほか、Motorolaも非欧州系メーカーと提携の話が進んでいると明かすなど早くも“派閥”が生まれつつある。
SMSの成功が相互運用性にあることから、プッシュ・ツー・トークでも相互運用性は成功を左右する大きな要因となる。標準化の動きとしては、Ericsson、Motorola、Nokia、Siemensが中心となってPoC(Push to talk over Cellular)という仕様を策定し、昨年8月に標準化団体OMA(Open Mobile Alliance)に提出している。ただ、現時点では仕様は完了しておらず、今年サーバと端末間での相互運用性をテストする。サーバやネットワークをまたいだ完全な相互運用性が実現するまでには、あと2年ほどかかりそうだ。
プッシュ・ツー・トークに熱心なのはオペレーター側も同じだ。複数の端末メーカーが、欧州以外にも幅広いオペレーターから話を持ちかけられていると明かしている。実装が簡単でコストも安いことから、音声からさらなる収益を得たいオペレーターは、次なるキラーアプリケーションの最有力候補として見ているようだ。実際、帯域と料金の観点から見ると、帯域使用率の低いプッシュ・ツー・トークは収益性が高いアプリケーションといえる。
欧州市場で、現時点で導入計画を発表しているのはOrangeのみ。公には発表していないが、英Vodafoneなど主要オペレーターが意向を示しており、今年中には出揃いそうだ。Orangeによると、課金体制はまだ決定していないが、通話毎の課金ではなく月額制の可能性が高いという。
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