TD-CDMAの「帯域独占議論」イー・アクセスの答えは?:Interview
TD-CDMAの15MHz幅は1社独占にすべきだ――。こう主張するアイピーモバイルとソフトバンクBBに対し、イー・アクセスは何を考え、どんな主張をするのか。同社技術部長の諸橋知雄氏に聞いた。
TD-CDMAに割り当てられると見られる2010~2025MHz帯で、通信事業者を2分した議論が行われている。アイピーモバイルとソフトバンクBBは、4月19日の情報通信審議会で「15MHz幅の帯域は、1社に独占させるべき」と主張した。一方、21日にTD-SCDMA(MC)方式の実験開始を発表したイー・アクセスにとって、TD-CDMAでのインフラ共通化は“飲めない話”のはず。これが新たな火種になりそうな雲行きだ。
この議論をイー・アクセス側はどうとらえ、どんな主張を展開するつもりなのか。同社のTD-CDMA技術のキーマンである、新規事業企画本部長 兼 技術部長、諸橋知雄氏に話を聞いた。
アイピーモバイルの資料は「精査する必要あり」
ITmedia 先日のIMT-2000技術調査方策作業班(技術作業班)、第4回会合ではアイピーモバイルが「1社独占の方が周波数の利用効率がいい」との調査結果を公開しました。この会合には諸橋さんも出席されていましたが、これをどう見ましたか。
諸橋 実は、にわかには資料を理解できなかったため、あの場では質問を行わなかった。
あの資料を見ると、3社が5MHz幅のサービスを提供すると、90万×3人しか収容できず、1社が15MHz幅のサービスを提供すると590万人を収容できることになっている(4月20日の記事参照)。しかし、同じ15MHz幅の周波数を、3社に分割するだけで収容人数に2倍以上もの開きが生じるのは、いかにも不思議な話だ。
アイピーモバイルは「次世代移動通信方式委員会」が1999年9月27日に行った答申を元に算出したようだが、こちらでもその文献を調べて、計算したいと思っている。先方の主張は、精査する必要がある。
ITmedia そもそも“1社に独占させる”という発想自体、どういう印象を持ちますか。1社がインフラ運営を任され、ほかの企業にMNVOなりホールセールなりのかたちで帯域を提供してはどうかとの提案もありますが。
諸橋 その場合は、健全な市場形成のために(独占事業者に対して)規制をかけていくことになるが……。そういう形態になる可能性が全くない、とはいえないが、考えにくい。
NTTのように100年の伝統ある企業が(電話回線のインフラを)独占するのは別として、新規で複数企業が参入しようというときに1社にインフラをまかせるのは、私の知る限りかつて聞いたことがない。
ITmedia 仮に「1社が独占する」ことに決まり、TD-CDMAでインフラ基盤を共通化することになると、イー・アクセスが提唱する“より進化した方式”(*下囲み参照)であるTD-SCDMA(MC)は排除されることになる、と考えてよいでしょうか。
諸橋 そうなるだろう。逆にTD-SCDMA(MC)で共通化すると、通常のTD-CDMAサービスは提供できない。技術作業班は本来、技術の検証を行うためだけに開催されるもののはず。なぜ今の段階でそういった(片方の排除につながるような)議論になるのか分からない。
ITmedia 「1社独占」にするか否かを議論する以前に、そもそもそうした議論を行うべきでないということでしょうか。
諸橋 周波数を1社独占にするかどうかを取りざたする前に、まずどういうサービス・アプリケーションを提供するか考え、それに周波数の議論が付随してくるべきだ。
たとえば、仮にTD-CDMAで携帯電話のようなサービスを提供するなら、そのサービスはどのくらいの市場規模があって、どのくらいのユーザー数が見込めるのか、競争条件を確保するには、何社が競争するのが望ましいか。世界各国で、どのくらいの事業者が携帯電話サービスを提供するのが適当と思われているかも、重要なファクターだろう。
こうしたことを多角的に検討して、事業者数を決めるべきで、最初から「周波数帯の利用効率」を追い求めて1社に絞るべきでない。
何よりも、まだソフトバンクBBもイー・アクセスも技術調査をしているところ。興味は持っているが、お互い「TD-CDMAの商用サービスを提供する」と明言したことは一度もないはずだ。この段階で周波数帯の議論をするのは、時期尚早といえるだろう。
(文中敬称略)
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