「モバイルWiMAXには魅力を感じない」──Ericsson CEOが話すスーパー3G
イー・モバイルに通信インフラを提供することになったEricssonのCEO、カール-ヘンリック・スヴァンベリ氏に、日本市場の展望と次世代通信技術について聞いた。
スウェーデンの通信機器メーカーEricssonは、1.7GHz帯で携帯電話サービスを提供予定のイー・モバイルに、通信インフラを提供する(3月13日の記事参照)。イー・モバイルがサービス開始時にカバーする予定の関東、中部、関西地域のW-CDMAネットワークとバックボーンのコアネットワークをEricssonが構築する。記者会見のため来日したEricssonのカール-ヘンリック・スヴァンベリCEOに、同社の日本戦略と次世代通信網の展望を聞いた。
世界標準技術の採用とともに日本市場でのプレゼンスを高める
Ericssonにとって日本市場は「非常にエキサイティングだ」とスヴァンベリ氏は話す。日本は世界で最も進んだモバイルコミュニケーション市場であり、最新のテクノロジー、最も進んだ技術を搭載した高品質な端末、そして先進的なユーザーがいるからだ。そのため、日本市場でイー・モバイルという新たなパートナーを得たことは、Ericssonにとっても非常に大きな意味を持つという。
Ericssonは、何年にも渡ってドコモと技術の共同開発を行ってきたし、ドコモに対しネットワーク機器の提供などもしてきた。しかし、FOMAのサービスについては、ドコモ自身が技術開発やR&Dの多くを内部で行っている。基地局設備などの機器も、ドコモは国内のサプライヤーから調達することが多いため、取引額という点ではそれほど大きくはないという。そして、KDDIにはシステムを供給していない。つまり、日本市場ではボーダフォンへのインフラ供給が非常に大きなウエートを占めていた。ここにイー・モバイルが新たに加わったことは、3Gのトップインフラベンダーとしては面目躍如といったところだろう。
同社は当然、今後の日本市場でのプレゼンス拡大を狙っている。独自のテクノロジーを採用したドコモが携帯電話市場の過半数を専有していることもあり、現在Ericssonが占めるポジションはかなり限定的だ。しかしこれからは、「独自の技術を用いて世界に先行することも大事だが、世界標準の技術を用いてスケールメリットを追求し、よいサービスを安価にユーザーに届けることも重要」(スヴァンベリ氏)。標準技術を採用した機器であれば、Ericssonは全世界のキャリアに機器とサービスを提供している実績がある。高速データ通信技術では標準化を推進している立場でもあり、ボーダフォンやイー・モバイル以外のキャリアとも関係が深まると見ている。
モバイルWiMAXよりもスーパー3Gを推進するEricsson
ところで、日本の通信キャリアの多くは「モバイルWiMAX」こと「IEEE802.16e」の研究や実験に積極的だ。今回Ericssonがインフラを提供することになったイー・アクセスも、W-CDMA/HSDPAのネットワークをモバイルWiMAXで補完する構想を持っている(2月8日の記事参照)し、ソフトバンクもBBモバイルに「WiMAX推進準備室」を設置した(1月5日の記事参照)。KDDIはオールIP化を果たした「ウルトラ3G」ネットワーク構想の中で、モバイルWiMAXを携帯電話インフラを補完する重要なコンポーネントと位置づけ(2月17日の記事参照)、ドコモも実験開始に前向き(1月31日の記事参照)な姿勢を示している。HSDPAやCDMA 1x EV-DO Rev.Aなどで通信速度の高速化を果たしたあとは、携帯電話網とモバイルWiMAXのネットワークを組み合わせて利用するのが次世代の標準になりそうな勢いだ。Ericssonは、モバイルWiMAXをどう見ているのだろうか。
「EricssonもWiMAXフォーラムの主要メンバーであり、顧客に提供する製品も用意している。しかし、我々はモバイルWiMAXよりもスーパー3Gの方が優れていると考えている」とスヴァンベリ氏。HSDPAでは、下りで最大14.4Mbpsの通信速度が実現できるが、すでにこの速度は40~50Mbps程度にまで引き上げられるめどが立っているという。スーパー3Gに関する技術開発も進んでおり、2Gから3Gへの移行のように、また別の新しいネットワークを急いで構築する必要性はなく、既存のネットワークを有効活用し、高速化していくことが重要だと考えている。
スーパー3Gとは、3.9Gなどとも呼ばれている3Gネットワークの最も進化したもので、4Gの前段階の技術だ。現在3GPPで標準化が進められており、HSDPAにより下りの通信速度を高速化した3.5Gの次に導入される技術と目されている。3Gと同じ5MHzの帯域幅を利用しながら、変調方式に4G向け技術であるOFDMなどを採用している点が特徴だ。4Gへの移行もスムーズに行える。
一方モバイルWiMAXは、一時的に高速な通信速度を実現できるが、スヴァンベリ氏は「携帯電話のネットワークのように、進化していく道筋が用意されていないことが問題」だという。基地局などの設備の価格もHSDPAやスーパー3Gと変わらないと見ており、知的所有権(IPR)の利用料もそれほど変わらない。「スーパー3Gは既存の3Gネットワークをアップグレードしていくことで対応できるが、モバイルWiMAXでは同じだけの投資をしても、得られるのは特定のエリアのカバレッジにしかならないのではないか」
また、モバイルWiMAXの機能を搭載した端末がどの程度市場に投入されるかも注視する必要があるという。世界の端末出荷台数は2005年に8億台を突破し、今なお増え続けているが、その中でごく一部にしか機能が搭載されないようでは、コスト的には不利になる。スヴァンベリ氏は「総合的に見てモバイルWiMAXのポテンシャルはあまり高くなく、魅力がないと考えている」と話した。
ボーダフォンとの取引に大きな変更はない
先日話題になった、ソフトバンクによるボーダフォン日本法人の買収交渉については、実際に買収が行われるかどうかは分からないと断った上で、Ericssonにとってはあまり大きなインパクトはないと話した。「Ericssonはボーダフォンの主要サプライヤーであり、役割は変わらないと考えている。ネットワークの発展計画などもボーダフォンにいくつか提案しており、オーナーシップが英Vodafoneにとどまるかソフトバンクが握るかは分からないが、その計画は興味を持ってレビューしてもらえるはずだ」(スヴァンベリ氏)
ただ、仮にソフトバンクのボーダフォン買収が実現した場合、ソフトバンクが新規参入事業社でなくなってしまう可能性がある。その点については、インフラを提供する事業社が減ることにつながりうるため、短期的なビジネスにはインパクトがあるかもしれないと話した。しかし現在ボーダフォンが取り組んでいるネットワーク発展への投資は、仮にソフトバンクが主導権を握れば、より加速するのではないかと考えており、あまり心配はしていないとした。
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