11月の東京会合にぜひ参加してほしい──FLO Forum カミール・グライスキ博士:神尾寿のMobile+Views
クアルコムジャパンが開催した「MediaFLO Conference 2007」に合わせ来日したFLO Forumのプレジデント、カミール・グライスキ博士に、FLO Forumの活動や日本国内での動きについて聞いた。
6月8日、クアルコムジャパンが「MediaFLO Conference 2007」を開催した(6月9日の記事参照)。携帯電話向け放送規格「MediaFLO」を用いたサービスは、北米Verizon Wirelessの「V Cast Mobile TV」が今年3月にスタート(1月9日の記事参照)。QUALCOMMは日本をはじめとする世界各地でのMediaFLOサービスの実現を目指している。
新たな放送方式であるMediaFLOが、各地域市場で商用サービスとして展開する上で重要になるのが、国際標準化や各国の電波行政に対する取り組みである。そこで今回は特別編として、米QUALCOMMのオマール・ジャベード氏とともに来日したFLO Forumプレジデントのカミール・グライスキ博士に単独インタビュー。MediaFLOの標準化を進める組織「FLO Forum」の現在の取り組みと、日本での活動について聞いた。
FLO Forumの現在の活動状況
──まず最初に、FLO Forum設立の狙いと、現在のメンバー構成状況について教えてください。
グライスキ氏(以下敬称略) FLO Forumには主に3つの目的があります。1つは世界的なFLOテクノロジーの標準化。2つ目がFLOの仕様の策定、さらに検証のサポートです。3つ目はモバイル向け放送の導入を考えている各国政府に対して、周波数(割り当て)に関する活動を行うことです。
FLO Forumには現在、約80社が参加しています。その中で3分の1がアジア圏の企業、3分の1が欧州の企業、残りの3分の1が北米企業という状況です。これらの参加企業の多くは、ワイヤレス業界を代表する会社です。業種の偏りもほとんどなく、例えば半導体メーカーは10社、携帯端末メーカーも10社、放送設備のメーカーは20社、ソフトウェア企業は30社程度が参加しています。また各国の通信オペレーターも参加しています。
これらの企業の中には、ISDB-T(ワンセグ)やDVB-Hの技術を持つところもあり、MediaFLOが将来、これら他のモバイル向け放送方式と併存できる可能性を示唆しています。QUALCOMMでは、MediaFLOとISDB-TやDVB-Hの受信を、1チップで可能にする「UBM」をすでに完成しています。こういった点が、(ISDB-TやDVB-Hにも取り組む)企業に評価されているのだと考えています。
──FLO Forumは現在、どのような活動を行っているのですか。
グライスキ まず国際標準化活動においては、FLO Forumが仕様を策定し、国際標準化団体に提案を行っています。例えばアメリカではTIA(アメリカ電気通信工業会)にMediaFLOの提案を行い、5つの仕様が同組織において承認されました。これによって放送機器メーカーやチップメーカーは、オープンな環境下でMediaFLO関連機器の製造ができるようになりました。
ほかにも、ETSI(欧州電気通信標準化協会)やITU(国際電気通信連合)でも標準化への働きかけを行い、最近ITU-Rの勧告にMediaFLOが含まれることになりました。
──今のMediaFLOを取り巻く状況を見ますと、QUALCOMM 1社が強いリーダーシップを取っているように見えます。今後FLO Forumを通じて、複数のメンバーがこの分野を牽引する形になるのでしょうか。
グライスキ 実際には、すでに(QUALCOMMだけでなく)複数の企業がMediaFLOを牽引する状況になっています。さまざまな展示会で、FLO Forumに参加する複数のメンバーが、TIAの仕様に従ったMediaFLO製品のアナウンスをしています。
当初、MediaFLOを推進し、方式や仕様の策定で大きく貢献したのがQUALCOMMであったのは事実です。しかし現在はFLO Forumの多くの参加企業が、いろいろな形でMediaFLOの発展に貢献しています。クアルコム1社だけが牽引している、というわけではありません。
日本での活動状況──ARIBとの関係は?
──FLO Forumは世界各地で活動をされていますが、ここ日本における取り組みはいかがでしょうか。特に今は、周波数の割り当てや国内でのMediaFLOの位置づけを決める上で重要な時期だと思いますが。
グライスキ 日本では、そう遠くない将来にARIB(電波産業会)で標準化活動が始まるのではないかと考えています。そのときには、FLO Forumはもちろん、(FLO Forumに参加する)各企業が標準化活動に協力させていただく形になるでしょう。
──FLO ForumとARIBは今後、どのような関係を築いていかれるのでしょうか。
グライスキ まず前提条件として、ARIBとの活動が始まるには、総務省によって(MediaFLOに)何らかの意志決定がなされてからということになると思います。特に周波数の割り当てが未確定が状況ですので、FLO ForumとARIBの関係が具体的に始まっているわけではありません。
日本でMediaFLOの位置がはっきりし、ARIBでの標準化が始まれば、その先の展開は速いと予想しています。我々FLO Forumとしては、直接ARIBに協力させていただくか、もしくは日本のFLO Forum参加企業を通じてARIBでの活動に協力させていただく形になるかと思います。
──今、日本のメンバーは何社いるのですか。
グライスキ 11社です。KDDIとソフトバンクに関しては、メディアフロー企画、モバイルメディア企画という企画会社が参加していますし、システムインテグレータ分野ではNECやCTC、端末メーカーではシャープや京セラ、東芝などが名を連ねています。
FLO Forumの会合では各国メンバーによるスピーチがあるのですが、(日本以外の)他国のメンバーから、日本のメンバーのスピーチは注目されています。日本の携帯電話市場で何が求められているか、というのは、FLO Forumの中でもよい刺激になっています。
──日本市場におけるMediaFLOのビジネス化を考えますと、無視できないのがNTTドコモの存在だと思います。ドコモはフジテレビなどと一緒にLLC(合同責任会社)を設立し(2006年11月の記事参照)、ISDB-Tで新たなモバイル向け放送サービスの検討をされています。
FLO Forumとしては、ドコモの参加はもはや難しいと考えているのか、それとも今後も積極的に参加を呼びかけるのか、どちらになるのでしょうか。
グライスキ 具体的に、個別企業との交渉についてコメントすることはできません。しかし一般論としていえば、FLO Forumの中でISDB-TとMediaFLOは相互補完的なものであるという理解がされています。この2つは(対立するのではなく)共存していくものになるでしょう。
11月までに、日本企業のさらなる参加を
──FLO Forumには現在11社の日本企業が参加していますが、日本の携帯電話産業にはさらに多くの企業が存在します。FLO Forumから、日本企業へのメッセージをいただけますか。
グライスキ FLO Forumの大きなポイントとして、コントリビューション(貢献)ドリブンということがあげられます。FLO Forumの今後の活動において、それぞれの国の参加企業からさまざまな提案があることは、非常に歓迎すべきことだと考えています。この提案とは、技術的な貢献はもちろんですが、それ以外にも、市場の要望だとか、ビジネスモデルなども含まれます。幅広くインプットをいただくことで、それがFLOの発展につながります。
さて、その上で日本企業の皆さんにとって、”今”はとてもよいタイミングです。なぜなら、次のFLO Forumの会合は11月なのですが、開催場所が東京なのです。
──なるほど。今なら、国内出張で次のFLO Forumに参加できるわけですね(笑)
グライスキ ええ(笑)。日本は携帯電話やモバイル向け放送の分野で、世界的に見ても先端的な取り組みを多数行っています。ですから、FLO Forumでは東京開催を決めました。ここで多くの日本企業の皆さんに参加していただき、意見を述べていただくことが、将来的な(MediaFLOの)グローバル展開の中で日本企業にとってのメリットにもつながるでしょう。
──本日はどうもありがとうございました。
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