多くの人に「使いやすく、楽しいUI」を──多様性を重視するドコモのUI戦略:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
商品力やサービス活性化につながるカギとして、携帯電話のユーザーインタフェース(UI)が大きな注目を集めている。そんな中で、ドコモは携帯のUIをどう見ているのか。NTTドコモ執行役員プロダクト&サービス本部プロダクト部長の永田清人氏に聞いた。
らくらくホンがリードする「ドコモのケータイUI」
携帯電話UIというと、iPhoneやHT1100のような“クール”なスマートフォンが注目されがちだが、UIの本質は複雑な機能やサービスを“分かりやすく、使いやすく”することだ。それにより利用者の裾野が広がり、各種機能やネットサービスの恩恵を多くの人が受けられるようになる。
このUIの基本に立ち返り、ドコモがこの分野の牽引役と位置づけるのが「FOMA らくらくホン」シリーズである。
「らくらくホンは歴代モデルで“最新機能を使いやすく”する取り組みを行っていまして、携帯電話UIという視点では実は先進的なものになっています。例えば、最新モデルのらくらくホンIVではGPS機能を搭載していますが、搭載技術としては(ハイエンドモデルの)90xシリーズと同じでも、GPSの活用にiアプリの知識がいらないなど、使いやすさの部分ではらくらくホンが上回っています。そういう意味で、らくらくホンは90xシリーズとは異なる方向性で、すごくハイテクなんですよ」(永田氏)
らくらくホンのUIにおける先進性は、携帯電話の操作が苦手な人でも最新のサービスが利用できるように、という部分から生まれた。だが、これはリテラシーのある90x/70xシリーズのユーザー向けの技術としても重要な役割を担っているという。
「“簡単にサービスが利用できるUI”は、らくらくホンだから必要なものかというと、そうではありません。リテラシーの高い90xシリーズのユーザーも、基本的には簡単な操作で使えるものを求めている。今後はらくらくホンで培ったノウハウや技術が、スタンダードモデルに反映されるという流れもあるでしょう」(永田氏)
UIをよくすればサービス利用も増える
UIは端末操作の部分で注目されがちだが、携帯電話ビジネスで考えれば、サービス全体の入り口を広くする上でも大切なものだ。過去を振り返れば、iモードの登場は「メール」と「デジタルコンテンツ」の入り口を一般層まで広げた“UI革命”であったし、最近ではプッシュ型情報配信サービスのiチャネルなどで、サービス利用層を増やす取り組みが行われている。
「iチャネルはプッシュ型コンテンツ配信を端末UIと融合させたもので、技術的にはさまざまな工夫があります。しかし表層的には“画面に情報が表示される”“ボタンを押すだけで詳細情報が見られる”と簡単な作りになっている。これは反省でもあるのですが、iモード登場以降、サービスが増えすぎて、個々のユーザーが求める情報にアクセスするための手順が増えてしまった。これを修正する取り組みは、(iチャネルに限らず)全体的に広がってくると考えています」(永田氏)
携帯電話向けのコンテンツやサービスは増加の一途をたどっている一方で、携帯電話UIはPCに比べるとサイズ面で制限されている。iチャネルのようなプッシュ型のUI補完サービスは今後も重要であり、「将来的にはリコメンド技術やエージェント的なサービスの組み合わせが考えられる」(永田氏)という。これは携帯電話コンテンツ・サービスの利用促進につながり、ユーザーにとっては利便性の拡大、携帯電話ビジネスの視点では市場の活性化につながるだろう。
また、今後の新サービス・新分野で見ると、操作性の点で改良の余地が大きく残されているのが「フルブラウザ」と「デジタル地図」だ。この2つはスムーズなフリーカーソル操作と見やすさの両立が必要であり、いまだ決定打と呼べるUIが登場していない。
「フルブラウザとデジタル地図については、HT1100でタッチパネル、『SH904i』のTOUCH CRUISERや『N904i』のニューロポインターなど、複数のアプローチをしています。この中で人目を引くのはタッチパネルですが、(液晶と操作部が違う)セパレート型のUIも引き続き検討する必要があります。
ドコモでは今後HSDPAにシフトしていきますし、そこでフルブラウザと地図サービスが重要になるのは間違いない。この2つに対して、どのようなUIが使いやすいのか。ここはメーカーさんと一緒に試行錯誤している段階です」(永田氏)
使いやすく、気持ちいいUI環境を作る
ドコモは以前から、“多様なUI”や“実験的なUI”に前向きな姿勢を取っており、らくらくホンシリーズを早期に立ち上げるなど、使いやすさ向上も積極的に行ってきた。しかし、その一方で、巨大化したiモードが、ドラスティックにUI環境を変えるハードルになっているのも確かだろう。例えば、細かな部分を見れば、ニューロポインターやTOUCH CRUISERなどフリーカーソル系のUIを積極的に導入しても、iモードメニューなど基本的なサービス部分のUIは従来のカーソル操作を前提にしたままだ。端末UIとコンテンツ・サービスのUIの変革において、足並みがそろっていない状況である。
「確かにiモードの多くの部分は、新しい端末UIに完全に適合していないところがあります。端末のUIは今後さらに多様化すると考えられますので、最終的にはiモードのUIも多様化すべきなんでしょうね。(異なる端末UIを使う)個々のユーザーごとにカスタマイズされる、という世界です」(永田氏)
ドコモは多くのユーザーを抱えていることもあり、特定の利用者層や技術に偏らず、今後もさまざまなUIにチャレンジしていく考えだ。巨大化・複雑化したコンテンツ・サービスを「使いやすくするのは当然。その上で、“気持ちよく”ご利用いただける環境を作りたい」(永田氏)という。
使いやすく、それでいて楽しい気持ちにさせてくれるUIは、携帯電話の魅力を底上げする。また、すべての端末が同じUIだったら、ケータイ選びもつまらないものになってしまうだろう。端末メーカーが切磋琢磨し、技術力・競争力を向上する術も大きく損なわれてしまう。
ドコモがどれだけ多様で、かつ魅力的なUIの端末・サービスを市場に投入できるか。期待をもって見守りたい。
関連記事
- 神尾寿のMobile+Viewsバックナンバー
- 永田清人氏最新記事一覧
- 「iPhone」最新記事一覧
- 「HT1100」最新記事一覧
- 「F1100」最新記事一覧
神尾寿のMobile+Views:タッチパネルの憂鬱と、その先にある可能性
“すべてをタッチパネルで操作する”というコンセプトは古くから存在したが、iPhoneの登場により、再びそのタッチパネルUIに注目が集まっている。タッチパネルは携帯電話が進化する1つの方向性における「スタートライン」だ。神尾寿の時事日想:携帯電話の世界で、いよいよユーザーインタフェースの革新が始まる
小さなボディの中には覚えきれないほどの機能が詰め込まれているが、しかしほとんどのユーザーは使いこなせていない――そんな携帯電話の現状を打開するのは、iPhoneやHT1100といった、UIによる革新を目指す新機種ではないだろうか?小牟田啓博のD-room:第11回 iPhoneから新世代ケータイのセンスを探る
数々の端末を世に送り出してきたデザインプロデューサーの小牟田啓博氏が、日常で感じたこと、経験したことを書き綴る「小牟田啓博のD- room」。6月29日に米国で発売された「iPhone」は、シンプルな外見や大型タッチパネルによるデザイン効果が話題を呼んでいる。Appleのモノ作りを小牟田氏が探った。1100シリーズは携帯電話と同じ感覚で使えるWindows Mobile端末──ドコモ永田氏
ドコモが発表した1100シリーズのWindows Mobile端末は、「携帯の形をしたWindows Mobile端末」だとドコモの永田清人氏。新端末で、ハイエンドコンシューマーユーザーもターゲットにして市場拡大を狙う。「らくらくホンIV」はユニバーサルデザインのフラッグシップモデル
ドコモの「らくらくホンIV」はユニバーサルデザインを採用し、年齢や能力に関係なく、誰でも簡単に使える携帯電話として生まれた。さらに詳しく、写真で解説する「iPhone」
発売から1週間少々が経過した米Appleの「iPhone」。日本の携帯電話業界では、どこへ行ってもiPhoneの話題で持ちきりだ。そんなiPhoneの外観と基本機能を改めて解説しよう。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.