携帯電話の世界で、いよいよユーザーインタフェースの革新が始まる:神尾寿の時事日想:
小さなボディの中には覚えきれないほどの機能が詰め込まれているが、しかしほとんどのユーザーは使いこなせていない――そんな携帯電話の現状を打開するのは、iPhoneやHT1100といった、UIによる革新を目指す新機種ではないだろうか?
8月30日、NTTドコモはスマートフォン2機種「HT1100」「F1100」を発表した。詳細は一連のレポート記事に譲るが、この中で注目なのが、HTC製の「HT1100」である。
“画面を指でタッチ”する携帯電話
HT1100はタッチパネル液晶を用いたユーザーインタフェース(以下、UI)である「TouchFLO」を搭載。本体をスライドすればダイヤルボタンが表れるが、基本的な操作は“画面を指でタッチ”することで行える。HTCはTouchFLOによって、これまでビジネスユーザーやリテラシーの高いユーザーに偏っていたスマートフォンの利用者層を、コンシューマー層にまで広げる考えだ(9月1日の記事参照)。
一方、携帯電話の世界で“UIによる革新”に火をつけたのは、今年6月に発売された米Appleの「iPhone」である。こちらはダイヤルキーなど物理的なボタンをすべて排し、タッチパネルのみで操作する。MacOS Xベースの専用OSや搭載ソフトウェア類はすべてタッチパネルを前提にしており、操作性の統一は徹底されている。その洗練度と完成度は現時点でトップだ。HTCのTouchFLOも、Windows Mobile搭載スマートフォンの中ではずば抜けてよいUIを持つが、iPhoneと比べれば周回遅れの感は否めない。
“携帯電話としての総合力”で見れば、iPhoneには確かに不備もある。しかし、UIの革新によって、携帯電話の新たなトレンドを創りつつあることは間違いないだろう。
コンテンツやサービスでもUIが争点に
UIによる革新が競争力を左右する。それは携帯電話端末だけの話ではない。コンテンツやサービスの分野でも、UIが重要な争点になってきている。
その一例が、8月21日に公開されたGoogleの「モバイルGoogleマップ」だ(8月21日の記事参照)。携帯電話における地図サービスはこれまで多く存在したが、モバイルGoogleマップでは“直感的かつシンプルに使える”操作性を重視。他の地図サービスにはない使いやすさが競争力になっている(8月22日の記事参照)。モバイルGoogleマップは今のところGPS機能に対応していないが、地図のスクロールや拡大・縮小の操作感は携帯電話のUI環境にあわせて、使いやすく作り込まれている。
もう1つUIの取り組みでユニークなのが、インクリメントPの携帯電話向けカーナビゲーションサービス「MapFanナビークル」だ(7月25日の記事参照)。こちらは従来からある車載型カーナビに近いUIを、携帯電話のサイズで使いやすいように再現しているのが特徴である。例えば、携帯電話のGPSナビゲーションサービスでは「メニューから現在地表示を選ぶ」ことで初めて自分の位置が地図上に表示されるが、MapFanナビークルではカーナビと同様に起動と同時に位置測位をして自車位置を表示する。これは日本のカーナビUIに慣れたユーザーが、戸惑うことなく利用できるようにするための配慮だ。
また、携帯電話でのカーナビゲーションサービスは、ドライバーが直接利用するのではなく、“助手席に座った人が道案内する”ために提供されている。しかし、助手席の友達や伴侶が「地図が苦手」「道案内が下手」ということもある。MapFanナビークルではそういった状況にも配慮し、音声案内が聞き取りやすく、方面案内が分かりやすいようになっている。地図が見られなくても、音声案内だけで何とか走れるのだ。これもUIにおける工夫の1つと言えるだろう。
多機能化競争から、UI開発競争へ
この10年で携帯電話は急速に進化し、あらゆる機能やサービスを貪欲に取り込んできた。しかしその一方、UIの進化は多機能化に比べて遅れており、詰め込まれた機能やサービスが“誰でも使える”状況になっていないのが現状だ。UIによる革新は、製品やサービスの成否を左右する重要な要素になるだろう。
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