「ドコモ 2.0」の名に恥じない大きな変化:神尾寿のMobile+Views
11月1日に発表されたドコモの新端末23機種は、携帯電話ビジネスの変化を先取りし、前例を廃して自ら変わるという、ドコモの不退転の決意を感じさせるものだ。ついに内実をともなった「ドコモ 2.0」は、その名に恥じない本物になったと言える。
NTTドコモが11月1日、FOMA 905iおよび705iシリーズによる2007年度下半期の新商品を発表した。詳しくはニュースおよびリポート記事に譲るが、今回の発表数は合計23機種。春商戦向けとなる705iシリーズを“先出し”したとはいえ、ハイエンドモデルの905iシリーズだけで10機種という布陣は、ドコモの本気を感じるに十分な内容だ。
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さらに今回の905i/705iシリーズは、ラインアップの中身も充実している。
フラッグシップとなる905iシリーズは、「フルワイドVGA」「HSDPA」「3G+GSMの国際ローミング」が基本性能となり、大半のモデルが「ワンセグ」にも対応した。デザインも多くのモデルがスリムかつスタイリッシュになり、垢抜けた。905iシリーズは、今後2年にわたりハイエンドモデルとして不満の出ない内容だろう。
さらに注目すべきは、これだけ基本性能の底上げを行っていながら、かつての90xシリーズのように「優等生による“どんぐりの背比べ”」になっていないことだ。高い基本性能の上に、上手にメーカーごとの付加価値機能を搭載し、個性付けを行っている。ドコモおよび各メーカーの商品企画力と開発力は、この1年で一足飛びに進歩した印象だ。「いいモノだけど、つまらない」という、ドコモ停滞期の頃の面影はもはやない。
一方、スタンダードモデルとなる705iシリーズの内容も野心的だ。こちらは905iシリーズよりさらに個性重視の内容になっていながら、「N705iμ」や「P705iμ」を筆頭に多くの端末がHSDPAに対応している。“HSDPAのスピード”が今期のドコモ端末の大きな魅力であり、不可逆的なユーザー体験をもたらすことを考えると、705iシリーズまでHSDPAを主軸に据えてきたことは意義深い。
さらに705iシリーズでは、デザイン家電「amadana」とのコラボや、ノキアやLG電子など海外メーカー製端末もラインアップに加えており、従来より幅広いユーザー層のニーズに応えられる内容になっている。
新時代に“前向き”になったドコモ
ドコモの姿勢も変化した。
今回、905iシリーズだけでなく、春商戦向けの705iシリーズまで発表した真意について問われると、NTTドコモ 取締役常務執行役員 プロダクト&サービス本部長の辻村清行氏は「新たな販売方式(割賦制)が始まる中で、今後の方向性をいち早くユーザーに伝えるため」と即座に切り返した。携帯電話ビジネスの変化を先取りし、前例を廃して自ら変わるという姿勢には、ドコモの不退転の決意を感じた。
この新時代に前向きな姿勢は、今回の新製品発表前から見え始めていた。10月26日に発表された「新たな販売モデルの導入」である。ここでドコモは、従来からの販売奨励金制度を大きく見直し、基本料金と端末代金を切り離した分離型モデル・割賦制の「バリューコース」を今後の主軸にすると明言した。従来型モデルの延長である「ベーシックコース」も当面は残るが、あくまで「我々(ドコモの)本命はバリューコース。お客様との新たな関係を築いていきたい」(NTTドコモの中村維夫社長)と、その姿勢を明確化している。
一方、これらドコモの前向きな姿勢と対称的に見えるのが最近のKDDIである。
KDDIは一連の販売方式の変化に対して、ドコモより先に「au買い方セレクト」を発表。ここで分離型プランの「シンプルコース」を新設したが、割賦制は導入せず、あくまで主力は従来の販売奨励金制度を手直しした「フルサポートコース」と位置づけた。フルサポートコースはauポイントを活用し、ユーザーの不公平感を軽減しながら、キャリア側も販売奨励金の無駄を減らす良策だが、その背景には「(ビジネス構造の)劇的な変化は避けたかった」(KDDI 取締役執行役員常務 コンシューマ事業統轄本部長の高橋誠氏)という理由がある。KDDIは従来路線の延長というソフトランディングプランを選んだのだ。
また、端末ラインアップを見ても、KDDIの冬商戦モデルはドコモに比べて控えめだ。「au oneガジェット」が新機軸のサービスとして登場したものの、全体的にみれば従来路線のリファインが中心。端末ラインアップは、“新時代仕様”となるRev.A対応のKCP+対応モデルが8機種中3機種しかなく、ワイドVGAやGSM対応モデルも乏しい。筆者の目には、技術革新よりも端末コスト削減ばかりを重視した内容に見える。
かつてのKDDIは、ビジネスモデルやサービス、採用技術など多くの面で、革新性や先進性が存在した。一時期、日本の携帯電話業界をリードしていたといっても過言ではない。しかし、今期のKDDIにはその積極姿勢があまり見られず、むしろドコモの新時代に臨む姿勢の方が前向きだ。
内実がともなった「ドコモ 2.0」を市場は受け入れるか
「ドコモは反撃します。他社はぜひ、ご覚悟ください」(NTTドコモマルチメディアサービス部長の夏野剛氏)
2007年4月、そう高らかに宣言した「ドコモ2.0」だったが、その中身は、反撃の宣言をした割にはパッとしないものだった。新時代を目指し、積極的に変わろうというドコモの姿勢は確かだったのだが、商品やサービス、料金プラン、ビジネスモデルなど“内実”の部分の変化が追いつかなかったのだ。結果として「ドコモ2.0」というフレーズは、掛け声ばかりが虚しく響き、消費者に理念が理解されないまま半年が経過した。
しかし、今回の新商品と新販売モデルで、新時代を表す「ドコモ2.0」という言葉に内実がようやくともなった。記者会見ではドコモ2.0の新CMが披露されたが、今度はしっかりと具体的で、消費者にもわかりやすい。ドコモ2.0はようやく、その名に恥じない本物になったと言える。
携帯電話のビジネスと市場は2008年、キャリア・メーカーの垣根を越えて大きく変化する。KDDIの躍進やソフトバンクモバイルの台頭で「一人負け」を喫していたドコモが、生まれ変わり、再びキャスティングボートを握れるか。今年の冬商戦は、その「第一幕」としても注目だ。
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