au“プリペイド乱売”問題の真相:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
契約数の水増しではないか──。KDDIがプリペイド携帯の無料配布を行っていることに対し、一部の報道機関がこのように報じたが、それは事実とは少し違う。そこには販売店の「au端末を売りたい」という思惑がある。
KDDIも「見て見ぬふり」
販売現場で繰り広げられているプリペイド携帯電話の乱売。いくら正規の手続きを踏んでいるとはいえ、この暴走ともいえる状況をKDDIはどのように捉えているのだろうか。
「(auの)プリペイド携帯電話は、ツーカーでプリペイド携帯電話をお使いいただいていたお客様のニーズに応えるものだと考えています。ツーカーには現時点で約25万のプリペイド契約が残っています。(auのプリペイド携帯電話は)多くの人にauをお試しいただくためのものです」(広報部)
しかし、実際の数字を見てみると、2008年1月の実績値でツーカーのプリペイド携帯電話の減少数は1万1300契約。一方で、auのプリペイド携帯電話の増加数は4万1800契約だ。もう少しさかのぼれば、2007年の冬商戦からauのプリペイド携帯電話の純増数がツーカーの減少数を大きく上回る“数字の乖離”は見られた。
KDDIはプリペイド携帯電話のいびつな売られ方に、かなり早い段階から気づいていたはずだ。それでも同社は、プリペイド携帯電話のインセンティブを削減するなど健全性を取り戻すための措置を講じず、乱売の抜け道を封じなかった。
その最たる例が、同一名義の「重複契約」の黙認である。auのプリペイド契約では、同一日時においては最大2回線までしか契約できないが、「契約日が変われば、同一名義による複数回線の契約に制限がない」(広報部)状況だ。
乱売を防ぐ手当てをまったくしていない今のKDDIの姿勢は、「見て見ぬふり」と言われてもしかたがないだろう。
そして、KDDIによく考えてもらいたいのが、プリペイド携帯電話を乱売した“ツケ”を誰が支払っているのか、ということである。
今回、大盤振る舞いされているインセンティブの原資は、auの既存ユーザーが毎月支払っている利用料金だ。インセンティブがまっとうな契約数の拡大に使われているならば、それはauの経営規模を成長させてインフラやサービスの再投資につながり、いずれは既存ユーザーの利益にもなる。だが、プリペイド携帯電話の無意味な乱売で霧消したインセンティブは、既存ユーザーの利益を損なうだけである。
KDDIの見て見ぬふり、名目上の契約数稼ぎのためのインセンティブ浪費は、auの既存ユーザーから見れば裏切り行為にほかならない。これが経営理念や広告で「顧客満足度No.1」や「お客様第一主義」を掲げたキャリアがやることなのだろうか。
無意味な純増競争はもうやめるべき
今回、auが行ったプリペイド携帯電話の乱売は行き過ぎた行為であるが、似たような強引な販売は、過去から現在にかけて他キャリアの販売現場でも規模の大小はあれど繰り広げられてきた。
この問題の本質に踏み込むと、そこにあるのは「右肩上がりの契約数の拡大」を前提にした純増競争である。“新規契約の獲得がすべて”という形でインセンティブ制度が組まれており、販売会社・販売店の評価もそこが基準になっている。ひとたび“たが”が外れれば、乱売が起きる土壌が業界内に残されている。
もちろんメディア側にも責任がある。
専門誌から一般紙まで多くのメディアが、番号ポータビリティ(MNP)開始以降、電気通信事業者協会(TCA)が発表する純増数に過度に注目し、それを大きく取り上げてきた。これにより、キャリアのイメージ戦略にとって「純増数という本来は一面的な尺度でしかないものが、絶対的なもののようになっている」(キャリア幹部)のである。
しかし、多くの消費者が携帯電話を所有するようになった今、キャリアを計るモノサシが純増数だけというのはあまりに偏っている。各キャリアが発表する解約率や各種の顧客満足度調査、純増数の内訳などにまで踏み込まなければ、キャリアの実態や善し悪しは分からないだろう。筆者自身も含めて、メディアが反省すべきところは大いにある。
無意味な純増数競争が引き起こした、氷山の一角──。それが「プリペイド乱売」の真相である。KDDIが早急に状況を改善するのはもちろんだが、他キャリアも含めて、販売奨励金制度や販売店評価基準を抜本的に見直す必要があるだろう。市場の多数派になった既存ユーザーの立場に立って、新たな時代にあわせた仕組み作りが行われることに期待したい。
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