本当にiPhone 3Gは“失敗した”のか:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
「失速」「敗戦」といった報道が続いている日本市場での「iPhone 3G」。しかし発売から3カ月ほどの販売状況で、従来の携帯電話端末と並列で比較し、その立ち上げが失敗だったと断じていいのだろうか。日本でiPhone 3Gが“離陸”する可能性を考察する。
iPhone 3Gのエコシステム構築が「離陸」できるかの鍵
では、日本市場でiPhone 3Gは離陸できるか。
ここで重要な鍵を握っているのが、iPhone 3Gと、それを取りまくエコシステムの構築である。
そのコアとなるのは、iPhone 3Gそのもののソフトウェア進化だが、これは順調に進展している。すでにiPhone 3Gのユーザーならば実感していると思うが、先日のiPhone 2.1へのソフトウェアアップデートでは、日本語入力環境や電波環境をはじめ、多くの点で機能改善が行われた。筆者もiPhone 2.1を導入し、常用しているが、全体的な反応速度や安定性の向上はめざましいものがある。購入後もソフトウェアアップデートで“進化”していくというのは、日本メーカー製の携帯電話にない魅力である。日本市場のニーズへの適応も含めて、今後に期待したい分野だ。
このiPhone 3Gのソフトウェア進化に加えて重要なのが、追加アプリケーションやWebサービスの充実だ。日本の携帯電話市場は、1999年のiモード登場以降、約10年をかけて「携帯サイト」と「携帯アプリ」の世界を発展・普及させてきた。これが“日本ケータイのエコシステム”になり、iPhone 3Gを筆頭に海外メーカー製端末にとっての参入障壁になっている。
iPhone 3Gが日本で成功するには、日本市場向けのiPhone 3G用アプリやWebサービスが増加し、洗練されていく必要がある。グローバルはもちろんだが、日本市場に向けた「iPhone 3Gのエコシステム」が成長していくことが重要なのだ。
もう1つiPhone 3Gが日本市場で成功するために欠かせないのが、キャリア側の周辺環境整備である。
この点では、日本側のホストであるソフトバンクモバイルは、料金プランの改定や専用メールサービス、ボイスメッセージサービスの構築など、これまでiPhone 3Gに対して手厚い対応をしてきた。日本での普及でハードルとなっている「デコメ」や「絵文字」「キャリアメール」対応についても、「ソフトバンクモバイル幹部が、足繁くApple本社に通って(ソフトウェアの)改善や追加の交渉をしている」(関係者)と聞く。Apple側がどこまで日本市場のニーズに対応するかは不分明だが、iPhone 3Gのソフトウェア機能が日本向けに最適化されれば、一般ユーザーへの普及のハードルはかなり低くなるだろう。
また、ソフトバンクモバイルなどスマートフォンに力を入れるキャリアには、「1つの契約番号で複数の端末(SIMカード)を切り替えて利用できるネットワークサービス」を用意してほしいところだ。すでにNTTドコモが、FOMAとmovaの2台の端末を同一番号で切り替えて使う「デュアルネットワークスサービス」を提供しているが、このようなサービスが、さらに洗練された使い勝手で3G端末同士で利用できれば、既存のケータイの”2台持ち“や“使い分け”がしやすくなる。これはiPhone 3Gのようなスマートフォンを日本で普及させる上で、必要な機能の1つだと筆者は考えている。
iPhone 3Gは「揺籃期」──今はエコシステムに注目すべき
華々しいデビューをしたことで過度な注目を浴びたが、iPhone 3Gはエコシステムの構築と市場の創出に時間のかかるプロダクトだ。今はいわば「揺籃期」であり、そこで結果を求めても意味がないだろう。むしろ、iPhone 3Gのエコシステムが日本で活性化しているかに注目する時期である。
iPodでも一般ユーザー層への浸透という「離陸」まで3年かかった。それを考えれば、iPhone 3Gの離陸は、動きの速い携帯電話業界であっても、短くても10ヶ月程度の時間を必要とするだろう。エコシステムの構築に時間がかかれば、モデルチェンジを経て1年半から2年ほどの歳月が必要になるシナリオも考えられる。
iPhone 3Gは、これまでの日本メーカーの携帯電話のように短期間での成功を睨んだものではない。長い時間をかけて、新しい市場や価値観を創ろうというプロダクトだ。この数ヶ月での結果でiPhone 3Gの影響を判断すると、その可能性と本質を見誤る恐れがある。iPhone 3Gの成否を評価するには、少なくとも来年夏まで待つ必要があるのではないだろうか。
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