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「VAIO Phone」は世界に羽ばたけるか? スマホ低コスト化の理想と現実バラして見ずにはいられない(2/3 ページ)

何かと話題となった日本通信とVAIOのSIMフリースマホ「VAIO Phone」を分解。いったいどんなパーツと製造技術が使われているのか、そして気になるコスト感について迫った。

機能を絞ってコストダウン

 一方でコストダウンのためか、ワンセグやおサイフケータイ、防水対応など、現在の日本製品で標準となっている機能が搭載されていない。ワンセグは、チップこそ1~2ドルと廉価(昔は2000円近かった)だが、ユーザーが手で伸ばすアンテナを頑丈に作ることに大きなコストがかかっていた。おサイフケータイも部材のコスト自体は高くないが、決済サービスであるだけにインフラやサービス周りの負担が大きいとされる。

 そして最もコストダウンに貢献しているのは防水からの解放だろう。水の浸入を防ぐには内部を密閉する必要があり、そのためのシーリングが欠かせない。また受話レシーバーやスピーカー、外部接続端子などの開口部を防水対応にする、あるいは未使用時にふさいでおくキャップが必要になる。

 また密閉度を上げることは、熱がこもりやすいことも意味する。電子部品は電力を消費し熱を排出する。プロセッサ等が動作時に発する熱は高く、素早く端末全体に拡散させて放熱しなければならない。しかし密閉されていると熱対策の選択肢も減る。防水に対応しないことで、熱設計は比較的自由に行えるようになったと推定される。

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バッテリー、液晶、カメラは非ソニー製?

 そしてスマホに必須のバッテリー、ディスプレイ、カメラについてはスペックを下げることでコスト削減を図っているようだ。

 例えばVAIOの母体であったソニーのスマホ「Xperia Z4」は、20Mピクセルを超える高性能カメラをセールスポイントの1つとしている。これは大規模に販売されているスマホの中では世界で最も高性能なモバイルカメラといえるだろう。

 VAIO Phoneは13Mピクセルのセンサーを搭載している。既存の格安スマホの中では画素数の多い方に入るが、Xperiaなどのハイスペックモデルとは比較にならない。そしてセンサーの外観を見る限り、ソニー製ではないようだ。


インカメラは5Mピクセル。流行りの自撮棒でもキレイな画像が撮影できるだろう

メインカメラは13Mピクセル。メーカーは不明だが、配線パターンなどからソニー製ではないと思われる

 5型の液晶ディスプレイはフルHD(1080×1920ピクセル)表示ではなく、HD(720×1280ピクセル)表示だ。パネルメーカーは特定できなかったが、ソニーも出資するジャパンディスプレイ(JDI)製ではないようで、この点もXperiaとは異なる。

 HDの液晶パネルはフルHDに比べて40%ほど安く調達できる。パネルメーカーが中国企業などのノンブランド製品である場合、その価格は更に安く抑えることができる。とはいえ、ディスプレイの解像度は1平方インチあたり320ピクセルで、iPhoneが「Retina Display」(網膜ディスプレイ)と定義する数値に極めて近く、高精細である事に変わりはない。


バッテリーは中国製

 バッテリーはリチウムイオンポリマー電池。その外観はアルミ系の銀色の外装でソニー製品と似ているが、バッテリーの捺印からは製造者を特定できなかった。スマホ用を問わず、昨今のバッテリーは多くが中国製であるが、中身のセルは今でも日本や韓国などが多くを生産している。バッテリーは化学反応を利用した部品であり、仮にセルが中国産ということになると、それを手のひらで操作したり胸ポケットに入れたり、また顔に近づけることに不安を持つユーザーも出てくるだろう。

それでも必要な日本部品

 通信部に村田製作所のノイズフィルターが使用されていることは先に紹介した。その通信に不可欠な部品が水晶発振子である。異なるタイミングで動く電子部品同士を調和させ、無線通信で用いる周波数を決定する役割を担う。VAIO Phoneでは水晶部品が2つ使用されていた。うち1つはセイコーエプソン製、もう1つは台湾のTXC製であった。ちなみに日本の水晶部品の世界シェアは50%を超えている。


2つある水晶発振子の1つはセイコーエプソン製

 また基板と筐体の各所に配置された部品を接続するためのコネクターも、日本勢が健闘している分野である。本機ではカメラ部とのコネクターにヒロセ電機の製品を確認した。他は詳細不明であったが、確認できていないだけで日本製品が多く搭載されているのだろう。


メイン基板(上)とサブ基板(下)は幅広いFPCで接続されている。FPCは表面が黒くコーティングされ、ノイズ対策も先進国向け端末と同じく万全だ

 1つの結論として、そぎ落とした部分は少なくないが、日本の新会社による初号機としては素晴らしい出来と言えるだろう。ほかのグローバルモデルと比較して調達数も少ない、またバイイングパワーが未知数のプレイヤーが手がけていることを考えると、このクラスの部材を使っているとしても本体価格5万円は決して高くない。低コスト化は、「数の経済」が最も物を言うからだ。

 ただそれは作り手の視点で、消費者の感覚からするとVAIO Phoneの価格設定は割高だ。今後、2号機、3号機となるにつれて、設計がより洗練され、調達数も増えれば、価格もお手頃になることが期待できる。

 また一部で中Xiaomiと比較する論評があったが、他社のデザインを無断使用しライセンス料も払わない企業との比較は公平と思えない。

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