「スマホで見る音楽PV」から学ぶ Webの作り手に今必要なもの(2/2 ページ)
「lyrical school(リリカルスクール)」をはじめとしたスマホ特化型PV。「PC用/スマホ用」「レスポンシブ対応」そんな既成概念を取っ払ったクリエイティブが今、注目されている。
「LISTEN TO AI SHINOZAKI―私を、聴いて。」(スマホ以外の端末だとデモムービーサイトへ飛ばされる)では、篠崎愛の1stアルバム『"EAT ‘EM AND SMILE”』に収録された曲“メモライズ”のPVを見ることができる。
これは見るか聴くかの2択が問われるスマホPVである。スマートフォンを裏返さないと楽曲が再生されないという、少々変わった仕様で、カラーコードの「Hands UP!」と同じようにジャイロセンサーを活用している。
つまり、篠崎愛の映像を見たいなら音楽は流れず、音楽を聴きたいなら篠崎愛の姿が見えない、ということになる。
このスマホの裏と表で出し分けるPVスタイルは、グラビアアイドルの篠崎愛ではなく、「歌手の篠崎愛として歌を聴いてほしい」という思いから、“見る”か“聴く”かの2択が問われるスマホPV作品となったとのこと。
4:デバイスで面白さが倍増する仕掛けをしたPV
スマホ専用というわけではないが、スマホやタブレットなどのタッチディスプレイで見ることで面白さが倍増する仕掛けを作ったのは安室奈美恵が2015年6月に発売したアルバム「_genic(ジェニック)」の収録曲、「Golden Touch」である。
映像のテーマとなっているのは、楽曲タイトルである「Golden Touch」の“Touch”。中心に指を置いて見ることで、風船を割ったり、DJのようにレコードを触ったり、さまざまな「Touch」の疑似体験が可能となっている。
つまり、タッチディスプレイという仕様を生かし、自分の指を置くことで、視聴者が映像に「影響を与えているのでは?」と勘違いを起こす仕掛けになっているのだ。
このPVは、カンヌ国際広告祭など数々の受賞歴を持つ、クリエイティブディレクターの川村真司氏が率いるクリエイティブ・ラボ「PARTY NY」と、NYとLAを拠点とする映像プロダクション「LOGAN」がタッグを組んで制作した。
PCから見ても同じように指を中心に置くことで、疑似体験は可能だが、スマホで見ると魅力が倍増するような面白い表現方法といえるだろう。
制約やデバイスの縛りをクリエイティビティへ転化
記事の冒頭でも触れた通りだが、ユーザーのコンテンツ視聴形態が多様化したことで、コンテンツの作り手側はさまざまな悩みを抱えることになった。しかし、今回紹介した事例を知ると「制約やデバイスの縛りをクリエイティビティへ転化すること」が十分に可能だということが分かる。
今後、視聴用デバイスはさらにハイスペック化し、映像なら4Kや8K、音楽ならハイレゾ対応コンテンツが当たり前のものになっていくのかもしれない。しかし、そうした「超美麗な映像」や「超高音質な楽曲」だけでは、コンテンツ慣れした視聴者の心を真に捉えることはできないだろう。
むしろ、進化するデバイスに合わせて「コンテンツの見せ方、作り方そのもの」を進化させる――それこそが、今後コンテンツの作り手に求められる発想力なのではないだろうか。
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