キャンペーンは「とことんやる」、手数料は「悪いようにはしない」 PayPay馬場副社長に聞く決済戦略:モバイル決済の裏側を聞く(3/4 ページ)
コード決済の事業者は、ほぼ出そろいつつある。その中でも、圧倒的な資金量と営業力で、後発ながら存在感を見せつけるのがPayPayだ。同社で加盟店開拓を主に担当する、取締役副社長執行役員COO兼営業統括本部長の馬場一氏に、現状の手応えや今後の目標などをうかがった。
キャペーン後の決済手数料はどうなる?
今後、PayPayで恐らく問題となるのが「決済手数料」だ。同社は2021年9月末までの期間限定で「決済手数料無料」をうたって加盟店開拓を行っている。これが結果として他社も追随せざるを得ないチキンレース状況を生み出し、コード決済は体力勝負の世界へと突入している。
メルペイのように「今後も長い付き合いになることを前提に」ということで当初から1.5%の決済手数料を規定してチキンレースには乗らない事業者もあるが、PayPayの決済手数料無料は加盟店開拓の武器になっている。例えば前述の和歌山での取材の際、いち早くPayPayを導入して紀伊田辺周辺の知り合いの店舗に「手数料は無料だし、気に入らなかったらいつでもすぐに辞めればいい」という言葉で説得して同サービスを広めていた米屋「たがみ」のケースもある。
この他、東京でもある地域のインド料理や中華料理店舗で急にPayPay導入が進んだケースがあり、その理由を聞いてみると「決済手数料無料と初期手数料無料でデメリットがないから」とオーナーは述べている。つまり、決済手数料を上げた瞬間に加盟店のPayPay離れを起こす危険性も包含している施策だといえる。これについて馬場氏に尋ねると、次のようなコメントが返ってきた。
馬場氏 「『悪いようにはしません』というのが回答です。常に競争していますし、三方(加盟店、ユーザー、PayPay)がよくなる方向を考えています。実際のところ、決済手数料でこの事業を成り立たせることは難しいと考えていますし、それ以外の方法でのマネタイズを考えています。
今だとチャージしてから支払ったり、あるいはカードから直接支払ったりしています。支払いなどさまざまな要素をスコア化する方法もありますし、あえてチャージしないで支払いを許可して、月に1回だけ支払ってもらえればいいという仕組みも考えられます。リボ払いの一種ですが、こうした金利をビジネスにすることもできます」
馬場氏 「もう1つはデジタルツールの世界です。例えばラーメン屋は個人経営のアナログな世界で、プロモーションを打ち出そうにも紙のチラシやクーポンを配るしかないわけです。車メーカーや消費財メーカーのような大きなメーカーにはできることが、普通のラーメン屋さんでは難しいのです。
チラシを作っても来店してもらうまで配れなかったり、ポストに投函(とうかん)してもらうのもコストがかかったりします。何より自分で個人情報を持つのが大変で、紙の印刷だけでもコストです。それがPayPayを通じてYahoo!広告を出したり、『今日は天気が悪い』となったら、販促のためにタマゴ1つをオマケでつけるサービスを常連にプッシュ配信で伝えたりすることもデジタルで可能になります。
その場合、売り上げの1%を販促費用としてもらう、といったことができます。特定のお客さんが見える形でアプローチしたり、新規のお客さんを獲得するために全員にプロモーションしたりと、やり方はいろいろあります」
なお、いろいろアイデアはあるものの、顧客獲得ツールやCRMのような仕組みを店舗用のPayPay for Businessのアプリケーションに取り込んでいくのはまだ少し時間がかかるとみられる。前述の石野氏の記事でも触れられているが、秋以降順次展開予定で、その最初の1つとなるスタンプカード導入も「秋までに導入できればいいと思っている」(馬場氏)という。
PayPayがJPQR(MPM)に参加しない理由
冒頭にあった和歌山取材のメイントピックはJPQR取材だったのだが、実際に8月初旬段階ではまだ立ち上がった直後であり、実際に利用可能店舗は1カ所しか取材できなかった。しかもその店舗でも、同日利用可能だったのは「Origami Pay」「J-Coin Pay」「メルペイ」のうち、Origami Payだけであり、なかなかに厳しい状況だ。
JPQR最大のメリットとして、店舗に統一QRコードを掲示するMPM(Merchant Presented Mode)方式により、店舗のカウンタースペースを複数のQRコードで占有される自体を防げ、顧客にとっても支払いたい決済手段のアプリを起動してQRコードを読み込むだけで済むので手軽という点だ。また、JPQRの申込時に複数の事業者に同時に書類提出が行われ、手間がある程度省けるという加盟店側のメリットもある。ゆえに「多少でも申請が楽になるなら……」ということで導入したという店舗が複数あることを確認している。
ところが、PayPayはMPM方式のJPQRには参加しておらず、この点が逆にJPQRにとってのデメリットになっている。和歌山の事例のみならず、今後全国的に多くの加盟店を獲得するとみられるPayPayが対応しないのは、プロモーション上にもマイナスだし、JPQR本来のメリットを生かせない。なぜPayPayはJPQRに参加しないのか。馬場氏の回答は明確だ。
馬場氏 「MPMで1つのQRコードを共同でみんなで使おうと言い出すと、営業して加盟店を獲得してきた事業者と、実際にユーザーが使ったアプリの事業者とで何らかの取り合いをしないといけないですよね。何を案分するのかと。僕たちは自ら営業に行って加盟店手数料を無料にしているので、ここでの取り分がないんです。だから案分するものがないというわけです」
互いに乗り合えず、メリットもない。ここが解決しない限り、JPQR参加はないかと質問すると、馬場氏は「ない」と断言する。実際、相互開放した場合の取り分について、先方からあまりいい話が聞こえてこなかったという。前述のメルペイが好例だが、最初から1.5%を前提に加盟店開拓している事業者と、無料を前提に開拓している事業者とでは手数料の考え方が異なり、ルール上の決めるべき問題があるということなのだろう。
一方で、AirペイにPayPayが載ったように、相互乗り入れではなく、ゲートウェイ経由で複数の決済手段のアクワイアリングを行う事業者の場合、PayPayは提携もやぶさかではないという。馬場氏は「ぐるなびPay」の事例も挙げるが、最初から手数料を取る場所については「幾分か」の収益がある形だ。
馬場氏 「加盟店のニーズというのは、手数料無料、初期費用無料、そして早く入金するというものもあるし、全部のQRコードや決済手段を1つの機械でやりたいというものもあります。前者なら僕らのサービスを使えば無料でできますし、後者のAirペイのような仕組みを3%の手数料に納得して選択されるお客さまであれば、そちらを選ぶのもいいと思います。手数料的にうれしいのは後者の方ですが、『僕らの方を選べば全部無料で済みますよ』となります。
関連記事
PayPay、ユーザー数が1000万、加盟店は100万に サービス開始から約10カ月で
モバイル決済サービス「PayPay」のユーザー数が8月7日に1000万に到達した。8月8日には加盟店が100万を突破した。サービス開始から約10カ月での達成となる。PayPay、サービス開始10カ月で980万ユーザーを突破 “利用習慣の定着”が奏功
ソフトバンクの宮内謙社長が、8月5日の決算説明会で、決済サービス「PayPay」の進捗(しんちょく)について語った。PayPayの累計登録者数は、2019年8月5日時点で980万人を突破した。累計決済回数は1億回を突破。いずれもサービス開始10カ月での記録となった。ユーザー数900万、加盟店70万を突破 PayPayが放つ次の一手とは?
「SoftBank World 2019」で同社グループのPayPay副社長の馬場一氏が最新戦略を語った。馬場氏によると、7月18日にPayPayは900万加入を達成。「間もなく1000万になる」と自信をのぞかせた。店舗とユーザーの接点を強化する機能を実装していくのが今後の目標だという。PayPay、9月は食品スーパーで最大10%還元
9月の「いつもどこかでワクワクペイペイ」は、食品スーパーマーケットが対象の「10時~14時がおトク!家計を応援!スーパーマーケット大還元祭」。9月1日~9月30日の毎日10時~14時の間に「PayPay」で支払うと、最大10%のPayPayボーナスが還元される。PayPay残高の名称や有効期限が変更 「PayPayマネー」は出金も可能に
PayPayは、2019年7月29日からPayPay残高の名称や有効期限などを変更する。「PayPayライト」は「PayPayマネーライト」に、「PayPayボーナスミニ」は「PayPayボーナスライト」に名称を変更する。9月30日以降、「PayPayマネー」から出金も可能になる予定。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.