インタビュー

キャンペーンは「とことんやる」、手数料は「悪いようにはしない」 PayPay馬場副社長に聞く決済戦略モバイル決済の裏側を聞く(4/4 ページ)

コード決済の事業者は、ほぼ出そろいつつある。その中でも、圧倒的な資金量と営業力で、後発ながら存在感を見せつけるのがPayPayだ。同社で加盟店開拓を主に担当する、取締役副社長執行役員COO兼営業統括本部長の馬場一氏に、現状の手応えや今後の目標などをうかがった。

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本来の意味での「送金」サービスが利用可能に

 PayPayの特徴の1つに、他のコード決済アプリが採用している「残高を使ったリアルカード決済」や「iDやQUICPay、Suicaなどの非接触通信を使った決済サービス」に対応しない点が挙げられる。これについても馬場氏は方針を述べている。

馬場氏 「確かにQRコードを出してやるよりは楽ですけど、われわれ営業にしてみると、あまり役に立たないのが実情です。PASMOやSuicaが入っているようなところは問題ないですが、われわれの多くは地方で商売している人たちを相手に営業しているので、そうした非接触決済に対応するために『では○万円で機材を導入しましょう』ってやっても、成約の雰囲気が流れてしまうだけです。

 それよりは、スマホをポケットに入れたまま顔認証で決済できますよとか、せっかくお互いがスマホを持っているのだから、スマホで何かいろいろやって決済できた方が絶対にいいと思うんです。PayPay for Businessのアプリケーションの中にそういう機能を入れられたらいいかなと。同じNFC同士でシュッ!って決済してもいいですし」

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 最後のトピックは送金の話だ。これまで、PayPayはいわゆる「資金決済法」における「前払式支払手段」の事業者であり、PayPay残高の扱いはあくまで「ポイント」であって「現金」ではなかった。前払式支払手段の場合、利用者の本人確認が簡易で済み、相手への“ポイント”付与などが容易な代わりに、「出金できない」というデメリットがあった。

 PayPayではここを改善する。9月末以降に導入される「PayPayマネー」を通じて「資金移動業」免許でのサービスが開始され、ようやく本来の意味での「送金」サービスが利用可能になった。これはLINE Payなどと同様、ほぼ現金と等価に扱える残高であり、好きなタイミングで現金化できる。この新サービスを通じてPayPayはどのような提案を行うつもりなのだろうか。

馬場氏 「私は送金などのマーケティングの担当ではないのですが、PayPayとして考えてみると、チャージする方法に多様性があった方がいいのは確かです。銀行やカードだったり、先日のセブン銀行ATMでの提携だったり、ヤフオクの売上金だったりするわけですが、送金もその手段の1つです。

 例えば子どもたちが夏休みに入って、お昼を食べさせるために親が今まで現金を渡していたものが、PayPay送金になって、これでコンビニで買い物をするわけです。お正月のお年玉も、遠く離れたおじちゃんに『お年玉ちょうだい』ということもできるわけです」


4つのレイヤーに分かれるPayPay残高の種類

PayPayで給料を支払う時代が来る?

 先日、pringというほぼ送金専用のサービスを提供する事業者を取材して、「送金」にまつわる可能性の一端を理解できた。他媒体の記事だが、銀行を介さない新興デジタル送金サービスのメリットの1つに「手数料がかからない」というものがある。

 今までは銀行振込で数百円単位の手数料を取られていたため、少額の振り込みは行えず「一定額を超えたタイミングで」となったり、給料払いや経費精算も月1回払いのようになっていたものが、それこそ1円単位の送金も可能で、さらに各種振り込みも週単位や日払いでもコスト上のデメリットはない。もし手に入れた金額を現金化したい、あるいは銀行口座に入れたいと思ったときのみ手数料が取られる仕組みだ。これについて馬場氏に尋ねたところ、興味深い回答があった。

馬場氏 「当然考えられますよ。実際、PayPay社員の給料はPayPayで払うぞって言っていますし。もちろん、給料払いをPayPayにするかは法律が改正されてからの話ですが、銀行より安い手数料でPayPayが請け負うという話になれば、いろいろできるんじゃないですかね。例えば、月末に給料が払われることを前提に、会社の代わりにPayPayが先払いで給料を払うんです。1万円先払いしてほしいということだったら、9990円を振り込んでおくとか。つまり金利手数料先払いの給料前借りです。

 今、ソフトバンクでAndroidスマホを買ったらPayPayボーナスがもらえるというのをやっていますけど、前は極端な話、VisaのギフトカードやTポイントを出していたわけです。もちろんPayPayの方がコストは安い。個別の話でいえば、量販店でのキャッシュバックにPayPayを使うというアイデアもあります。商品を卸しているメーカーが販促をやりたいとき、単純に値引きすると量販店がもうかるだけです。そこで個別の購入者に還元するためのキャッシュバックというわけですが、これがAmazonギフトみたいなものだと角が立ったりするわけです。いろいろ可能性はあると思います」

 非常に興味深い話があった馬場氏のインタビューだが、普及優先の派手なキャンペーンが目立つ一方で、一度広く普及させることでいろいろ可能性が生まれるという側面も垣間見ることができた。既に10月1日を前にコード決済の覇権争いはほぼ終盤に差し掛かっていると筆者は考えているが、それを越えた2~3年先の未来を見据えてみると面白いかもしれない。

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