新春対談/北俊一氏×クロサカタツヤ氏(後編):解約金1000円の謎、楽天モバイルやMVNOの行方は?(2/3 ページ)
2019年10月に施行された改正電気通信事業法によって、モバイル業界のルールが大きく変わった。北俊一氏とクロサカタツヤ氏の対談後編では、解約金1000円やMVNOについて語っていただいた。解約金はなぜ突如1000円に決まったのか? 分離プランが主流になることで、MVNOにはどんな影響があるのだろうか?
SIMロックはなくなる方向に?
―― SIMロック解除の議論に関しては、まだこの件を議論するのかと感じるほど延々と続いています。キャリアは一定期間SIMロックをかけることについて、端末を分割払いで買った際に不払いを避けるためというように言っていますが、それが本当に理由になっているのかという点も含めて、どう思われますか。もうこの話は終わっていいんじゃないかと感じることもあるのですが。
北氏 SIMロック解除についても、2020年の検討テーマに挙がっています。
―― 結局、SIMロックはなくなる方向で動いているのですか?
北氏 端末と回線がいつも一体で動いていた時代には、SIMロックは一定の効果があったと思います。しかし、完全分離時代においては、端末と回線を別々に買うわけです。ソフトバンクの「半額サポート+」は、そこをみんなに気が付かせてくれました。
会合でキャリアさんに聞いたこともありますが、現金で一括で買う人も含めて、なぜ全ての端末にSIMロックをかけているのか。しかも現場でロックを外すのにお金を取っていたわけです。自分たちの都合でかけているものを外すときに、ユーザーからお金を取っていた。そのお金は今回、取ったらダメということになりましたが(※2019年11月のSIMロック解除ガイドラインの改正により、購入時以外に店舗で手続を行う場合を除き、手数料無料化が義務付けられた)。
全ての端末にSIMロックをかける理由は、盗難防止だということですが、お店の防犯対策をもっと厳重にしてくださいという話ですよ。そのツケをユーザーに回しているという話。長いSIMロックの議論の歴史の中で、少しずつ解除されてきて、最後に残ったのが“100日ルール”です。24回割賦の1回目の入金を確認するのに、最大90日程度かかるから100日まではSIMロックをかけていていいですよというルールを作ったわけです。今回の議論の中で、端末の詐取や踏み倒しは、IMEIロックなど、SIMロック以外の方法で手当すべきではないかという意見が出ています。
また、詐取された端末は、海外に持っていかれると使われてしまう。海外に持っていくような人たちは簡単にSIMロックを外しちゃうんですよね。だから、盗難防止策としてのSIMロックは実質的に意味がないんですよ。そこらへんをちゃんと議論して、決着をつけましょうということだと思います。
クロサカ氏 総務省の委員会の資料(※PDF)で公表されていますが、SIMロックの問題が改めて議論されるときに、3キャリアがSIMロック解除でどういう手続きを踏んでいるか、業務プロセスを総務省が事細かに分析してくれたんです。横並びにしてみると、それぞれのキャリアのSIMロックに対する思惑というか意志が分かります。SIMロック解除にポジティブな方と、ぐずぐずしている方がはっきり見えて面白かったです。
今回、ドコモさんがある面では総務省よりも振り切ったくらいの優等生ぶりで、腹が据わっているなと感じました。たぶん、SIMロックじゃない、より実効性のある手段を考えていくときにも、マーケットをリードされていくのではないかなと思います。最大手ですから、他も基本的に同じ方向に進んでいくんじゃないかと期待しています。
楽天モバイルが規制緩和を訴えているわけではない
―― 2019年の大きなトピックとして、楽天モバイルの参入がありました。改正法について、楽天モバイルもいろいろ意見は言っていましたが、楽天にとってどういう影響があったのでしょうか。一部で、楽天だけは端末値引きの規制対象外にすべきなんじゃないかという意見もありました。楽天に対してどう見ていますか?
北氏 楽天さんは、自分たちだけ規制を緩くしてくれといったことは、何も言っていません。「ウチは縛りません、端末は全部SIMフリーで売ります、既存3キャリアとはウチは違うんです」。いわゆるT-Mobileのような“アンキャリア”戦略路線で来ているので、彼らからの陳情は一切ありませんでした。
ただ、楽天は楽天MVNOが存在するから複雑なんですよね。会合の最初の頃は、楽天MVNOとして呼ばれ、楽天MVNOとしての意見でした。楽天MVNOとしては、MNO3社が札束でユーザーを取り合っている世界ではとても太刀打ちできません。完全分離による端末購入補助の規制は、MVNOを育てる、あるいは新たなキャリアの参入に対して、公正競争条件を整えるという目的があります。協調的寡占状態の3社は有り余る資金を持っていますし、端末の大幅な値引き競争になったら、楽天はMVNOとしてもMNOとしても勝てません。ですから、値引き規制はやってくれという意見でした。
―― ある種、自分の首を絞めたことにならないでしょうか。俗称“三木谷割”といわれていた値引きをしていましたが、楽天は100万契約以上あるので、今回の規制でMVNOでもそれができなくなってしまいます。楽天が「ウチは新規なのでもうちょっと何とかなりませんか」みたいな動きをしたらどうだったかなと思うのですが。
クロサカ氏 うーん……楽天からそういう話は出でこなかったですし、マーケティングの考え方からしても、それでよかったと思います。「弱いんだから見逃してよ、お目こぼししてよ」というのはブランドを必ず毀損(きそん)します。より突っ張るというのは、マーケティング戦略として正しいと思います。つまり、楽天に関しては「問題はそっちじゃない」っていうところですよね。
MNOとしての楽天さんは、もちろん議論に参加して、今回の議論をむしろ後押しするというか、積極的に肯定するような取り組みをされていました。消費者行政的には、1キャリアだけ違うことをやっていると非常に分かりにくくなるので、私は楽天さんがそういう態度でいらっしゃってよかったなと思っています。頑張ってサービスを始めていただけるといいなと思います。
北氏 この間(2019年12月10日)の3時間にわたる通信障害はある意味、よかったと思いますね。
―― よかった?
北氏 このタイミングで起こってくれて。
―― 試験サービス中でよかったと。
北氏 ええ。5000人に対する限定的なサービスの期間中に不具合が起きてくれてよかったと思います。総務省が4度目の行政指導を出しましたが、その文書の中に「過負荷試験等の実施」、いわゆるストレステストをちゃんとやって、結果を1カ月以内報告するように要請しています。楽天が出した計画を審査した上で免許を与えた総務省としては、楽天モバイルにはしっかり立ち上がってもらわないと困るわけです。
今回の完全分離によって目指す世界は、端末は端末で価格競争が起こり、通信料金は通信料金で競争が起こる世界。楽天さんが料金を「半額にする」と言って参入することで料金競争が起こることを期待していたわけですから、私は初詣で楽天さんが立ち上がることをお祈りします(笑)。
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