NTTドコモが「なんちゃって5G」を優良誤認になると牽制――新周波数帯だけで「5Gエリア競争」に勝てるのか:石川温のスマホ業界新聞
NTTドコモが「5Gネットワーク展開戦略」をテーマにした記者説明会を開催した。他キャリアが熱心なLTE用周波数用の転用こそ否定しないものの、あくまでも5G用の帯域でのエリア化を重視する姿勢を示した。これで思い出すのが、LTEへの移行を急がなかった結果出遅れたドコモの姿だ。
8月25日、NTTドコモは「5Gネットワーク展開戦略」をテーマにした記者説明会を開催した。
この記事について
この記事は、毎週土曜日に配信されているメールマガジン「石川温のスマホ業界新聞」から、一部を転載したものです。今回の記事は2020年8月29日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額税別500円)の申し込みはこちらから。
今秋、省令改正によって、4G向け周波数帯で5Gスマホを収容できるようになる。KDDIやソフトバンクは、クアルコムやエリクソンが展開する技術である「DSS(ダイナミックスペクトラムシェアリング)」を用いて、一気に5Gエリアを広げていくものと思われる。
そんななか、NTTドコモは「制度化に賛同」という立場を示しつつも、「なんちゃって5Gは優良誤認につながりかねない」として、他社に対して牽制して見せた。
「5Gエリアと表示されていても、周波数帯は変わらないので、4Gと同等もしくはそれ以下の速度しか出ないのはユーザーに対して不誠実だ」というわけだ。
NTTドコモとしては5G用に割り当てられた新しい周波数帯で、5Gのネットワークを構築していくのが基本とした。また、NTTドコモのPREMIUM 4G(懐かしい)は国内最速であることもアピールされた。
ただ、この話を聞いて思い出したのが、10年近く前のことだ。NTTドコモがiPhoneを取り扱い始め、4Gが出始めたころ、3社で同じiPhoneで比較できるということもあり、各メディアがこぞって「iPhoneで4G LTEのエリア、速度チェック」を記事にしたのだった。
山手線や新幹線などに乗り、あちこちのホームや駅前で「4Gが入るか」「速度はどれくらいか」というチェックをして、ひたすら記事にしていた。
KDDIは3Gから4Gへの移行に焦っていたこともあり、800MHzで4G LTEを全国展開。エリアの広さをアピールしていた。
一方、NTTドコモは「3Gネットワークはまだまだ速い。地方などは3Gネットワークで十分であり、4G LTEは混雑しているところを中心に展開する」みたいなスタンスであった。
しかし、4G LTEがつながる場所の比較において、KDDIやソフトバンクのエリアの広さが際立つなか、NTTドコモが他社に比べて見劣りする状況になりつつあった。結局、NTTドコモは3Gネットワークに依存することなく、急遽、方針転換して、4Gネットワークの全国展開を急いだのであった。
メディアもユーザーも、まずはスマホのアンテナピクトを見て「あ、5Gだ」と喜び、そこで速度チェックをしたりする。今時、4Gでつながっているのが当たり前であり、わざわざそこで速度チェックはしない。
今後、メディアが5Gエリアの比較記事を書く際には、まずは「5Gがつながるか」で○か×の印がつけられ、その次に速度測定という流れになる。結局のところ、○が多くなければ認められず、×が多ければ「いまいちなキャリア」のレッテルを貼られることになるのだ。
NTTドコモの品質重視な姿勢は理解できなくもないが、マーケティング的な戦略もないと、他社に「なんちゃって5G」で出し抜かれることになってしまいそうだ。
関連記事
4G周波数の5G転用は「優良誤認」と「速度低下」の恐れあり ドコモの5Gネットワーク戦略を解説
総務省の省令改正により、4G周波数の一部を5Gに利用できるようになった。こうした状況に疑問を投げかけているのがNTTドコモだ。同社自身も4Gから5Gへの転用は行う予定だが、拡大には慎重な姿勢を示す。ドコモ、スタンドアロン方式の5Gサービスを2021年度に開始
NTTドコモが、スタンドアロン(SA)方式の5Gサービスを2021年度中に提供することを明かした。スタンドアロン方式では、5Gのコアネットワークを用いることで、5Gの実力をフルに発揮できる。ドコモは4G周波数の一部を5Gに転用することも検討している。5Gの技術を整理する 当初はなぜ高速大容量通信しか使えないのか?
5Gは4Gの技術をベースに進化しており、高速大容量通信、超低遅延、多数同時接続という3つの特徴がある。だが5Gは4Gまでの進化と異なり、劇的な技術革新によって高性能を実現したわけではない。4Gまでの技術をベースにしながら、さまざまな技術を組み合わせているのだ。なぜ5Gのエリアは劇的に狭いのか? キャリア各社の5Gエリア整備計画を確認する
国内でもキャリア各社の5G商用サービスが始まったが、5Gを利用できるエリアは非常に狭い。その大きな理由は、5G向けの周波数が高く障害物に弱いこと、衛星通信との電波干渉を受けてしまうこと。そんな中で、キャリアはどのような計画で5Gエリアを広げていくのだろうか。ドコモ吉澤社長に聞く「5G契約」の現状 年内に安価な5Gスマホ投入へ
NTTドコモの吉澤和弘社長の単独インタビューを実施。5Gの契約数は17万にとどまるが、「想定通り」だという。年内には安価な5Gスマートフォンを投入する予定。大容量プランの「5Gギガホ」と段階制プランの「5Gギガライト」の比率は半々。
関連リンク
© DWANGO Co., Ltd.