5G時代にMVNOはどんな進化を遂げるのか カギを握る「非スマホ領域」と「VMNO」:ITmedia Mobile 20周年特別企画(3/3 ページ)
携帯電話業界が導入を進めている5Gは、携帯電話を含めた多様な無線通信の需要に応えるシステムです。実は、この5Gのコンセプトは、MVNOが現在抱えている課題の解決に相性がいいと考えられます。一方で、MVNOが5Gの時代において前述のような役割を果たすためには、技術的な課題と制度的な課題を解決する必要があります。
MVNOがフルスペックの5Gを導入する上での課題
一方で、MVNOが5Gの時代において前述のような役割を果たすためには、技術的な課題と制度的な課題を解決する必要があります。
現在、日本で利用可能なキャリアの5G網は、5G NSA(ノンスタンドアロン)と呼ばれるものです。5G NSAは4Gの携帯電話網を管理しているコアネットワーク(EPC)に5Gの基地局を接続したものです。フルスペックの5Gの提供には時間がかかるため、5Gの機能の中でも高速性だけを先行して取り入れる形で整備が進められたものです。MVNOにとっては、5G NSAで提供されるネットワークは4Gと同様に扱えるため、現在のキャリア・MVNO間のインタフェース(接続点)をそのまま利用してすることができます。
しかし5G NSAでは、非スマホ用途で期待される高速性以外の機能が利用できません。高速性以外を含めたフルスペックの5Gは、今後導入される5G SA(スタンドアロン)で利用可能になります。このために、5G SAではコアネットワークが刷新されるのですが、それに伴い、キャリアとMVNOを接続するインタフェースも変更されてしまうのです。さらに、この新しいインタフェースについては業界内での標準がまだ定まっておらず、どのようにしてキャリアとMVNOを接続するかの検討から始めなければなりません。
キャリアからは、5G SAにおいても4Gに類似した携帯で接続が可能ではないかという発言が出ています。しかし、5G SAで4Gと類似したインタフェースとした場合、4Gと同様の通信は実現できるかもしれませんが、5Gのキーコンセプトであるネットワークスライシングを制御することができない恐れがあります。5Gの無線システムを5Gらしく活用するためにはネットワークスライシングの利用が重要です。キャリアがスライシングを自由に活用できる一方で、MVNOはスライシングが利用できない、あるいは利用に制限があるとなると、キャリアとMVNOが同等の環境で公正に競争することができなくなるかもしれません。
MVNOが引き続き携帯市場の競争に参画するためには、MVNOも5G SAのネットワークスライシングを制御するための新たな接続モデルが必要だと考えられます。そこでIIJは、テレコムサービス協会 MVNO委員会の一員として、5G SA時代の新たな接続モデルとして「VMNO」と呼ばれるモデルを提唱しています。
VMNOでは「ライトVMNO」と「フルVMNO」と名付けた2つの接続形態を想定しています。ライトVMNOは、無線網・ネットワークスライシングの管理はあくまでキャリアが一元的に行い、VMNOはキャリアが用意したAPIを経由して、スライスの作成などの制御を要求するというものです。これに対してフルVMNOは、VMNOが5Gコアネットワークを運用し、5G無線網の制御に直接関与するという点が異なります。
いずれの接続形態でも、これまでのMVNOに相当する「VMNO」が必要に応じてネットワークスライシングを利用できることが前提です。こうすることによって、MVNOとキャリアが同じ土俵に立って公正に競争できるようになるのではないかと考えています。
このVMNO構想は技術上の課題であると同時に、国の制度上の課題でもあります。現在日本のMVNOは「第二種指定電気通信設備制度」に大きく依存しています。第二種指定電気通信設備制度では、MVNOがキャリアに支払う「接続料」はキャリアが運用する無線網が均一な機能を提供している前提で、キャリアとMVNOが無線網を負担した割合においてそのコストを分担するというモデルとなっています。
5Gではさまざまなスペックのスライスが混在することになり、無線網が均一であるという前提が崩れます。また、スライスなど、無線網に新たに追加された機能のコストを算定する方法はまだ定まっていません。仮に技術的にVMNO構想が実現できたとしても、不均一な無線網やスライスなどのコストをどのように算定し、キャリアとMVNOがどのように負担を分担するのかといったことについて、改めて議論を行わなければならないでしょう。さらに、これらの議論が最終的に国の制度、法律として落とし込まれる必要があり、それには今しばらくの時間がかかるものと思われます。
5Gは携帯電話技術の大きな転換点であると同時に、MVNO制度にとっても大きな転換点なのです。
これまでの20年、これからの20年
この特集の前編でも触れた通り、ITmedia Mobileがスタートした2001年は日本でPHSを使ったMVNOが登場した年でもあります。最初は市場の中で全く存在感がなかったMVNOですが、ITmedia Mobileはその頃から継続的にMVNOという存在をニュースとして取り上げてきた数少ないメディアの1つだと思います。業界の端くれとして、その見識に感じ入り、また、感謝しています。
2021年の携帯電話業界は、技術では5G SAによる無線網の多用途化が迫り、ビジネスではキャリア・MVNOのポジションの再構成、そして、政策面でも大きな変化が起りつつあります。この先20年の携帯電話業界のなかで、2021年はターニングポイントとして振り返られる年になるのではないでしょうか。
ターニングポイントを経て時代を刻み続けるメディアとして、ITmedia Mobileがますますご活躍されることを祈念しています。
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