新しいIoTデバイスの実用化のためにバッテリーの開発を加速――ソフトバンクが「次世代電池Lab.」を公開(3/4 ページ)
ソフトバンクが、6月に栃木県宇都宮市内に開設した「次世代電池Lab.」を報道関係者に公開した。そもそもなぜ、ソフトバンクはバッテリー(充電池)の開発に注力するのだろうか。そしてどのようなバッテリーを作ろうとしているのだろうか。その辺りの事情もチェックしてみよう。
高密度化は段階的に実施
ソフトバンクは、高密度バッテリーを段階的に実現していく方針である。
まず、バッテリーの負極(マイナス極)側の活物質をカーボンやシリコンからリチウム金属に切り替える。400~500カテゴリーのバッテリーであれば、これだけで実現可能だといい、実用化も間近なようだ。
今回の説明イベントでは、Enpower Greentechと共同で試作/実証した520Wh出力のリチウム金属(空気)電池のセルの実物が展示されていた。このバッテリーの寿命は100サイクル以上で(※1)、この条件でのバッテリーセルの実証に成功したのは世界で初めてだという。
(※1)バッテリーセルの寿命評価は現在も継続中で、第62回電池討議会で発表される予定
高密度なリチウム金属電池を実現するには、バッテリーの外部と電力をやりとりするための「集電体」の改良や変更も欠かせない。
従来のバッテリーでは、集電体として銅箔(どうはく)が使われている。しかし、最も薄い銅箔は6μmで、薄型化は限界に近づいている。これだけ薄型化されていても、バッテリーの重量の多くを占めているという。つまり、銅箔にこだわりすぎるとバッテリーのさらなる薄型/軽量化は難しいということでもある。
そこで開発されたのが、次世代樹脂箔である。この樹脂箔は従来の銅箔と厚みが変わらないように見えるが、手に持つと明らかに銅箔よりも軽いことが分かる。これを採用することで、エネルギー密度は約50Wh/kg改善できるという。
バッテリーのエネルギー密度を高める際には、安全の確保も欠かせない。その取り組みの1つが全固体電池の開発である。
現在主流のリチウムイオン電池では、可燃性の液体電解質が使われている。何らかの理由でこの電解質が外に漏れると、引火したり爆発したりすることがある。液体電解質の代わりにポリマー電解質を使う「リチウムポリマー電池」でも成分的には同様のリスクを抱えている。
そこでソフトバンクは、高密度バッテリーの電解質として「Li10GePS12系固体電解質」を採用した。正極(プラス極)には「リチウム過剰系正極活物質」を用いることで、250mAh/g以上という高容量を実現した。
こうした過剰系の正極材料は、既に数十年前から高容量化につながるキーアイテムとして知られていた。しかし、電解液との組み合わせで成果が出せずに埋もれていた。固定電解質の技術が進んだことで、再び脚光を浴びるようになった。
今回の過剰系正極材料は、東京工業大学の菅野了次教授と住友化学との1年半をかけた共同研究の成果だという。
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