キャッシュレス決済の拡大に「デビットカード」が欠かせない理由(1/2 ページ)
銀行口座に直結して支払時にすぐさま口座から現金が引き落とされるデビットカードが拡大している。特に国際ブランドが利用可能なブランドデビットが急伸しており、世界におけるVisaブランドのデビットカード取扱高はクレジットカードを超えている。国内ではクレジットカードの伸びは頭打ちだが、デビットカードはまだ成長の余地が残されている。
銀行口座に直結して支払時にすぐさま口座から現金が引き落とされるデビットカードが拡大している。特に国際ブランドが利用可能なブランドデビットが急伸しており、ビザ・ワールドワイド・ジャパンによれば、世界におけるVisaブランドのデビットカード取扱高はクレジットカードを超えている。日本でも発行枚数が拡大しており、同社では日本のキャッシュレスを拡大する「1つの柱になる」(同社コンシューマーソリューションズ部長寺尾林人氏)とみる。
日本経済はコロナ禍によって大きなダメージを受け、消費支出が減少しているが、これは一時的な減少で、それよりもオンライン化やキャッシュレス化の波は、コロナ禍で加速した恒常的な変化だと寺尾氏は話す。
このキャッシュレス化をさらに拡大する原動力として、寺尾氏はタッチ決済、トークン、デビットという3つのポイントを挙げる。
店舗や銀行にとってもメリットが大きいデビットカード
デビットカードは、決済金額をそのまま銀行口座から引き落とす銀行直結型の決済だ。即時引き落とされるため、口座残高以上の支払いはできず、常に残高を把握できるので安心感がある。Visaブランドのついたデビットカードなら、Visa加盟店でクレジットカードと同様(一部を除く)に利用できるため、国内外の多くの場所で支払いができる。
クレジットカードと同じセキュリティ技術が使われており、不正利用の監視なども行われている。クレジットカードのようにポイントやキャッシュバックといったサービスもあるので、「現金よりお得に使える」(同)という点も利用者にとってのメリットだ。
加えて、「社会的なメリットがある」(寺尾氏)こともデビットカードの特徴だ。デビットカードでの決済は、原理的に「ATMで現金口座から現金を引き出し、その現金を持って店舗に行き、商品を購入する」のと同じだ。現金を引き出す手間がなくなり、現金を持ち運ぶ必要もないため、「脱現金化」につながる。これによってATM維持コスト、現金運搬などの関連コストが削減できるというのがメリットの1つだ。店舗にとっても、現金が減れば入金、両替などの手数料が削減できる。
銀行にとってのメリットも大きい。従来のキャッシュカードは頻繁に使うものではなかったが、デビットカードは支払いのたびに使うため、銀行にとっては顧客との接点が増える。デビットカードは、いわば現金のデジタル化になるため、利用者の決済データが銀行側で把握できるようになり、こうしたデータを活用したマーケティングなどのデータ利活用につなげられる。
デビットカードに注力する千葉銀行、アプリによる顧客接点の拡大も
こうした点からデビットカードに力を入れているのが千葉銀行だ。もともと同社ではグループ会社がカードビジネスを行ってきたが、千葉銀行本体でもカードビジネスに取り組むようになったという。その背景には、「2025年にキャッシュレス比率40%」という政府目標の達成が「確実視されている」(千葉銀行執行役員カード事業部長・俣木洋一氏)点がある。
キャッシュレス化が進展すると、「従来銀行が関与していた決済取引は縮小する」(同)。そのため、銀行本体で本気になって取り組む必要がある、と判断したという。
千葉銀行本体がVisaのライセンスを取得して加盟店事業を開始したのが2019年10月。カード業務やシステムを内製化して加盟店管理システムと決済センターを自行内で持ち、2020年10月には新たにVisaデビットの発行を開始した。従来のデビットカードに対して年会費の無料化を実現したことで、全ての口座に対してデビットカードが発行できるようになったという。
俣木氏によれば、内製化やVisaデビット化などによるコスト削減で、独自のポイント戦略も打ち出せるようになった。千葉銀行は地銀連携のTSUBASAアライアンスに参画しており、全国の地銀10行と連携したポイント事業である「TSUBASAポイント」を、Visaデビット利用に付与できるようになったそうだ。
千葉銀行では、従来のキャッシュカード単体からVisaデビットが付帯したカードへの切り替えを推進しており、さらにプラチナカードや法人カードも用意し、多様なニーズに対応することで決済利用の拡大を目指す。
デビットカード利用による決済だけではなく、決済時の通知をスマートフォン用のバンキングアプリで行うことによって、アプリを使った顧客接点の拡大もメリットだと俣木氏は指摘する。
「従来の有人店舗の接点が、バンキングアプリに急速に切り替わっている」と俣木氏。千葉銀行では、デビットカードの利用で決済データを把握できることに加え、バンキングアプリへの接点が増えることで、パーソナライズサービスの提供や非金融サービスの確立に注力しているという。
例えば、千葉銀行のデビットカード加盟店のお得情報を、パーソナライズしたデビットカード会員に配信して送客することで、地域の活性化にもつなげるといった戦略を描く。このように千葉銀行では、デジタルバンク戦略の重要な要素として位置付け、今後も注力していく。
アプリへの接点としてデビットカードは重要な役割を担う。加えて、決済データの拡大でパーソナライズやデータベースマーケティングの精度向上も期待でき、比金融サービスや地域エコシステムといったビジネス拡大ももくろむ
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