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台湾の事例に学ぶ、日本のキャッシュレス化に必要なもの(1/2 ページ)

日本キャッシュレス化協会主催の「キャッシュレスが創る未来」セミナーが開催された。今回は「キャッシュレス化における日本の課題」という視点から、セミナーでのトピックを紹介したい。特に参考になるのが台湾の事例だ。

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 日本キャッシュレス化協会主催の「キャッシュレスが創る未来」セミナーが東京都内で6月21日に開催された。講師にはAmazon Pay事業本部 事業部長の井野川拓也氏、pring代表取締役CEOの荻原充彦氏、台湾モバイルペイメント副社長/FSIC(Financial Infomation Service Co)のモバイルペイメント推展顧問の徐文玲氏が招かれ、それぞれの事業での最新の取り組みの他、国内外のキャッシュレスに関するパネルディスカッションが行われている。今回は「キャッシュレス化における日本の課題」という視点から、セミナーでのトピックを紹介したい。

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パネルディスカッションの模様、左から日本キャッシュレス化協会 専務理事の高木純氏、pring代表取締役CEOの荻原充彦氏、Amazon Pay事業本部 事業部長の井野川拓也氏、通訳の方を挟んで右端が台湾モバイルペイメント副社長の徐文玲氏

国家施策「台湾Pay」拡大の秘訣(ひけつ)とは

 「今後10年間(2027年6月まで)に、キャッシュレス決済比率を倍増し、4割程度とすることを目指す」とは、2017年に発表された「未来投資戦略 2017」(資料※PDF)で初めて掲げられたKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)で、キャッシュレス化推進を目指す日本の国としての戦略目標だ。一般に、この目標が設定された時点での日本でのキャッシュレス決済比率は消費支出全体の2割程度といわれており、10年間でこれを2倍にしていこうというのがその趣旨だ。

 とはいえ、これまで現金の代替となる決済手段が登場してから何十年も経過し、電子マネーやモバイル決済の出現で決済手段が多様化してなお、国全体の決済傾向が大きく変わらない中、これをわずか10年で大きく転換させるには本当に思い切った施策が必要だ。こうした問題で参考になるのは、やはり海外での事例だろう。

 「台湾Pay」は、台湾の国家主導で作られたモバイル決済サービスで、現在日本でも議論が進みつつある「QRコード決済の統一方式」を実現したものだ。2017年9月にスタートし、2018年5月時点で対応決済端末が7万6000箇所で稼働している。台湾Payに対応した銀行のカードを登録することで利用でき、同時点での参加銀行数は23行、対応する流通カード数は6510万枚で、これは全発行枚数の3分の2に相当する。

 台湾も日本同様にキャッシュレス比率倍増化計画を立てており、今後5年でその比率を現在の26%から52%まで引き上げるのが目標で、台湾Payはその推進材料の1つとなる。

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「台湾Pay」のWebサイト

 台湾Payを推進しているのは財金資訊公司(Financial Information Service Co.:FISC)で、台湾(中華民国)中央銀行の直轄組織にあたる。主にプラットフォーム構築に近い金融サービスを担当しており、銀行間の取引以外では即時のグロス決済システムや支払方式への対応、金融機関の資金調達システム、今回のテーマにもつながるクレジットカードやキャッシュカードの推進といった業務を行っている。

 インバウンド対応の面では、台湾の銀行カードをそのまま日本のATMで利用してお金を引き出す、ファミリーマートなど店舗によっては直接決済を可能にするといったシステムの整備も行っている。

 今回の台湾Pay開始にあたっては、国内銀行らによる乱立の兆候がみられたQRコード方式の統一をはじめ、スマートフォンを使ったモバイル決済の利用を引き上げるとともに、一連の取引で発生する“データ”を「台湾国内に残す」という国家としての重点戦略がある。

 デジタル立国を掲げる台湾にとって、国内ベンダーが内部競合で疲弊している間に海外勢力によってデータや資金が吸い上げられていく状況は看過できないというわけだ。2018年後半にはEMVCoの仕様をマージする形でMastercardやVisaといった国際ブランドのカードも利用できるようになり、アクセプタンスの幅が広がる。

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台湾Payの歩みと対応銀行、利用状況
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EMVCo仕様の取り込みによる国際カードブランドへの対応

 徐氏によれば、この施策で参考かつ目標としたのが中国での事例だという。同国でのAlipayやWeChat Payの普及や発展を見つつ、規制緩和やコンビニなどの日常の買い物への浸透など、台湾におけるモバイル決済戦略の骨子となっている。

 SDKやAPIのような仕組みを用意しつつも、台湾Payのアプリそのものの機能拡充を経て「みんなが安心して使えるサービス」を目指したという。段階的な機能強化が行われており、将来的には「EasyCard」のような交通系電子マネーを取り込んだタップ&ペイへの対応や、インターネットバンキング機能を取り込んだ振り込み処理、さらに将来的にはウォレット機能の拡充で身分証のようなものも取り込んでいくという。

 店舗側にとってもメリットが大きい。中小規模の商店やタクシーなどの事業者の決済手段拡充から、クラウドレシート対応や店舗向けアプリ提供による会計処理の簡素まで、店舗オペレーションの支援を行う。台湾Payでは店舗がQRコードを印刷して会計の受け付けに使える「静的QRコード」にも対応しており、店舗側の投資負担が軽いうえ、実際にこの仕組みを利用する事業者の方が多いという。

 極め付きは、モバイル決済利用時における店舗事業者への営業税を、2020年までという期間限定ながら本来の5%から1%に引き下げており、法整備で一気に普及を図っている点だ。銀行間の資金移動手数料をゼロにするなど、もともと手数料ゼロをプロモーション材料にしている。

 また、サービスインまでの準備期間はわずか1年ほどということで、このあたりのスピード感も興味深い。利用者向けのプロモーションとしては、アプリのダウンロードでアイスクリームやコーヒーを提供するなど、プレゼントを絡めた形での拡散を図っているという。こうした一連の施策をもって1年後にどのように変化しているのかに注目したい。

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台湾の国としてのデジタル立国戦略を反映したものだと説明するのは台湾モバイルペイメント副社長の徐文玲氏

日本のQRコード決済市場はどうなるのか

 QRコード決済を受ける事業者にとってのメリットはいくつかあるが、「アカウント」を使って決済を行うため「個人の行動分析やマーケティング」が行いやすいこと、そして「専用のPOSを必要としない」点で初期設備投資が低く抑えられる点だ。

 最近では国内でも急速に「QRコードを使った決済」や「○○Pay」といったサービスが増えている。従来の店頭決済サービスに比べた参入ハードルの低さもあり、多くの事業者が参入し、「ライバルにおいしい部分を持っていかせない」と考えているためだ。あわよくば、競合他社をかわして「時をおかずして数社程度に収束する」(pringの荻原氏)という状況で主役に躍り出る事業者が出るかもしれない。

 モバイル決済市場には既にLINEや楽天、携帯キャリアといった大手らがひしめいており、後発かつユーザーベースをそもそも持たないスタートアップ企業にとっては不利な状況ではある。だが、各社それぞれが独自のビジネスモデルやユーザーメリットを打ち出しており、1〜2社がシェアを独占するという状況にはならないのも、キャッシュレス比率の低い日本ならではだといえる。

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