スマートウォッチで心不全の悪化を検知 沖縄セルラー電話など3者が実証事業を開始(1/2 ページ)
沖縄セルラー、浦添総合病院、セコム琉球は、スマートウォッチで心疾患の悪化を検知する実証事業を開始した。10月12日から約3カ月間に渡り実証を行い、サービスの商用化も視野に成果の検討を行っていくという。
沖縄セルラー電話、浦添総合病院とセコム琉球は10月12日から、スマートウォッチを活用した心拍モニタリングの実証事業を開始する。医療機関、通信事業者とホームセキュリティ事業者が連携して行うヘルスケアサービスは日本初とのことで、3者は将来の商用サービス化を視野に実証を進める。
スマートウォッチで心拍をモニタリング
今回の実証事業は10月12日~2023年1月11日まで実施される。浦添総合病院に心疾患で通院中の患者にスマートウォッチを貸与し、心不全の悪化兆候を迅速に検知することで、早期の医療対応につなげることを狙いとしている。
実証事業は沖縄セルラー電話が統括し、同社が提供するヘルスケアプラットフォーム「JOTOホームドクター」を活用して実施される。患者のモニタリングと異常検知時の連絡はセコム琉球が、実証の有用性の検証は浦添総合病院の医師がそれぞれ担う。成果報告は2023年2月に行われる予定となっている。
患者にはスマートウォッチを24時間着用してもらい、そのセンサーで心拍数を常時モニタリングする。心不全悪化の兆候が見られた場合は、セコム琉球が患者本人に電話で連絡を行う。本人への電話がつながらない際は、あらかじめ登録した家族にも連絡を実施する仕組みとなっている。その後、必要に応じて専門医による対面診療やオンライン診療につなげるという。
実証の初期段階では、スマートウォッチから心拍数のデータのみを取得する。安静時心拍が「120以上」または「50以下」となった場合に“異常”と判定され、電話連絡が行われる。実証の成果を見つつ、心不全の兆候をより正確に検知するために「運動強度」「酸素飽和度(SpO2)」といったデータも取得することを検討していくという。
「セルフケア」で心不全に対応
厚生労働省の統計によると、心疾患(心臓病)による年間死亡者数は21万4710人(2021年度)で、がんに次いで日本で2番目に多い死因となっている。その中でも特に厄介な存在が、今回の実証事業のテーマでもある「心不全」だ。
心不全は命を“縮める”病気と表現されることもある。その多くは心筋梗塞や高血圧など、心臓の状態悪化により発症する。自覚症状としてよく見られるのは息切れや動悸(どうき)で、これらの症状自体は服薬などを通して回復できる。しかし、心臓の筋肉は一度機能を停止すると再生しないため、心不全の症状は徐々に悪化していく傾向にある。つまり、心不全は一度発症すると生涯付き合うことになる可能性が高い。
日本での心不全の推定患者数は約100万人で、現在の推計では2030年まで増加傾向が続くと見られている。高齢化の進展と共に心不全の患者が“爆発的に”増加する様は、感染症になぞらえて「心不全パンデミック」と呼ばれることもある。
浦添総合病院の上原裕樹医師(循環器内科部長)は「心筋梗塞など心疾患を経験した患者さんは、心不全で再入院するケースが多く、退院したとしてもすぐ戻ってきてしまう現状がある。病院にとっては新たな患者さんを診察することが難しくなる上、病院経営や医療費の圧迫という観点からも課題だ」と指摘する。
先述の通り、心不全には投薬や医療機器による対処療法もある。しかし、悪化を防ぐためには生活習慣を整え、適度な運動を行うという基本的な健康管理が重要なのだ。
このような観点から近年、心不全への対処法として「セルフケア」が注目を集めている。患者自身が自分の状態を把握することで、病気を予防するという考え方だ。
その実践として、浦添総合病院では心不全を抱える患者に日々の体調を記録する「心不全手帳」を配布している。この手帳によって再入院率を大幅に低下させたという実績も上げている。また、患者が自宅で血圧計や酸素モニターを使って測定したデータを自動で病院へ転送し、医師がモニタリングするといった取り組みも行っているという。
今回の実証事業も、こうしたセルフケアの取り組みの派生形といえる。ウェアラブルデバイスならではの利点は、日々の生活の中で心拍を常時計測し続けていることにある。患者の負担を抑えながら、再発の兆候をより早期に発見し、医師による治療につなげられる可能性も秘めている。
高齢者が多い心不全の患者にとって、この取り組みは生活習慣の管理にかかる負担が軽減できるというメリットもある。アプリ側で一度設定しておけば、患者側はスマートウォッチを装着するだけで済み、記録や機械による測定の手間も省けるからだ。
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